頭脳警察「コミック雑誌なんかいらない」


昨日224日はジョージ・ハリソンの誕生日であった。
ジョージは
1943年生まれなので、生きていればめでたく65歳であった。
土曜日の夜中、明日はジョージの誕生日だと思いつつ、
Yahoo!のニュースを見たら、驚きのニュースが掲載されていた。

あの「ロス疑惑」の三浦和義氏が、
妻だった一美さんの殺害容疑などで
アメリカの警察当局によりサイパンで逮捕されたというものである。
「ロス疑惑」については
昨年
627日の日記において私見を述べているので繰り返さないが、
とにかく「なんで
!?」というのが率直な感想であった。

一審こそ無期懲役の判決であったが、
その後、最高裁で無罪が確定しているのである。
それをなんでいまさら、
しかもアメリカの警察当局が逮捕するのかさっぱりわからなかった。
なんでも「新証拠が見つかった」という。
しかし、その内容は明らかにされていない。

昨日から今日にかけて、テレビではいっせいにこの逮捕について報じている。
僕はすべての報道に目を通しているわけではないので断言はできないのだが、
どうも「逮捕
=三浦氏犯人」という見方で報じられている傾向があるような気がする。

今日の朝日新聞の朝刊にも
『遺族「本当のこと言って」』という見出しの記事が掲載されていた。
一美さんのお母さんのコメントを紹介した記事の見出しである。

「ロス疑惑」報道がなされた1984年から85年にかけての三浦氏に対するマスコミの取り上げ方は、
男性を対象としてはヘンな表現ではあるが、
まさに現代の魔女裁判といっても過言ではなかったと思う。
当の三浦氏も後に
「当時のあの報道を見て、僕が犯人だと思わなかった人はほとんどいなかったと思いますよ」
というようなことを述べていた。

もちろん僕も、その
1人であった。
だから
1985911日、
三浦氏がいわゆる「一美さん殴打事件」で逮捕されたときも
「あー、とうとう捕まったか」というのが正直な印象であった。

しかし、当時のマスコミの報道がいかにデタラメでひどいものだったかは
後に三浦氏が東京拘置所から次々とマスコミを相手取って起こした裁判で立証される。

たしか400件以上の訴訟を起こし、勝った裁判は約80パーセント。
残り
15パーセントは時効であったため、
実質的に三浦氏の訴えが認められなかったのはわずか
5パーセントである。

これを契機にいわゆる「人権と報道」というのが大きく見直された。
どんな重大事件の被疑者でもかつて三浦氏が逮捕されたときのように、
居並ぶ報道陣の前を手錠をかけられたまま歩かされるというようなことは
いまはもうない。

「ロス疑惑」がこの国のマスコミに与えた教訓は計り知れないと思う。

三浦氏が逮捕された1985年は日航機が墜落し、
報道陣の前で豊田商事の永野会長が刺殺されるなど、
本当にショッキングなニュースが多い
1年だった。
そうしたニュースの数々を
1人の芸能レポーターを狂言まわしにして
シニカルに描いた映画が、内田裕也さん主演の“コミック雑誌なんかいらない”である。

この映画では裕也さん演じる芸能レポーターが
三浦氏本人にインタビューするシーンがある。

ちょうど三浦氏が逮捕された翌日だか数日後だかに、
裕也さんがテレビのワイドショーに出ていたのを偶然観た。
司会は森光子だった。
映画で共演した三浦氏の逮捕について聞かれた裕也さんは
「逮捕されたからってすぐに、
ミウラとかカズヨシとかとマスコミの人が呼び捨てにするのはどうかと思う」
というようなことを語っていた。

『コミック雑誌なんかいらない』というのは、
裕也さんもよくステージで唄っている曲のタイトルでもあるが、
もともとは頭脳警察の曲である。

頭脳警察はパンタこと中村治雄と、
現在はエンケンバンドの一員でもあるトシこと石塚俊明の
2人で1969年に結成された。
しかし、ファーストアルバムは発売禁止となり、
その後も発売禁止や放送禁止といった、
まさに音楽活動に対する権力側の不当な干渉との闘いを余儀なくされた
伝説のバンドである。

今回の三浦氏逮捕が今後どのような展開を見せるのかさっぱり予測はつかないが、
裁くのはマスコミではない。

法の正義に基づいた公正な裁判が行われ、
正しい判決がくだされることを信じたい。

それにしても、
いくら日本とアメリカとでは法の解釈や制度が違うからとはいえ、
最高裁で無実を勝ち取った
1人の人間がその後もアメリカの警察当局からマークされ、
逮捕されてしまうことに僕は恐怖を感じずにはいられない。
1つの独立した法治国家である日本国民に対し、
こんなことが許されていいのだろうか
? 
逆に今回の逮捕が正当なものであるのであれば、
いまの日本の警察や司法の体質や制度は大丈夫といえるのか
?

今回の三浦氏逮捕を受け、
今後の展開についてあれこれ好き勝手な予想をする前に、
まずそこをしっかりと考えるべきではないのだろうか
?


2008.02