レッド・ツェッペリン「天国への階段」

僕の誕生日当日、
みんなとの待ち合わせの時間までまだ余裕があったので、
後輩のスズキくんを引き連れ、
上野の国立科学博物館へと行ってきた。
ここは子どもの頃から、大好きな場所なのである。

ここの入り口には
30メートルの巨大なシロナガスクジラの像が飾られていて、
僕はこれを見るためだけに何度か博物館の前に行ったこともある。

そんな話をスズキくんにしながら上野をほてほてと歩いていたところ、
彼は国立科学博物館に行ったことがないというので、
「じゃあ」ということで連れて行ったのだ。

土曜日の午後、野郎二人で博物館。
なんとも絵にならない光景である。

大道芸人見物や動物園・美術館などへ向かう人々でごったがえす上野公園を突っ切り、
博物館の前でシロナガスクジラの像を見ていたら、
女性と小さな女の子が我々に近づいてきた。
なんだ?と思ったら
「天国に行けるように祈りませんか」というではないか
!!

このいきなりの申し出に僕はこう答えた。
「僕は天国って信じてないんですよ」

女性は怪訝そうな顔をしながら、さらにこう続けた。
「でも、お祈りすることで幸せな人生を送れたらいいと思いませんか」

僕はピシャリと言い放った。
「そんなことはお祈りになんか頼らず、自分でちゃんとやります」

結局、スズキくんは女の子に導かれるままに、
お祈りの言葉をいわされた。
僕は断固拒んだ。
スズキくんはそんな僕を見て、
「大人気ないですね。お祈りの言葉ぐらいいってあげればいいじゃないですか。
女の子がかわいそうですよ」と僕をたしなめた。

しかし、僕は僕なりの信念があってのことなのだ。
僕は宗教的なことは、いっさい信じていない。
天国も地獄も極楽も信じていない。
こちとら、だてにジョン・レノンの『ゴッド』を聴いて育ったわけじゃないのだ。
自分自身と自分が信じられる人間しか、僕は信じない。
信仰についてはイワシの頭も信心からであって、
もし信仰のご利益があるのだとしたら、
それは何に祈ったかではなく、
祈る人の心のなかからご利益は生まれると考えている。

自己啓発にしてもそうなのだが、
僕は画一化されたマニュアル的なものが大嫌いで、
一度もそんなものに興味をもったことがない。
信仰にしても、自己啓発にしても、
自分の生き方に直結する問題である。
それを誰かに委ねるつもりはさらさらない。
自分の人生観は、すべて自分で確立してきたし、
これからもそうするつもりだ。

死んだら僕は天国になんか行かなくていい。
魂は水蒸気のように消えてしまえばいい。
墓もいらない。
寺山修司ではないが、僕の墓は僕の言葉で十分だ。


天国という言葉がついた名曲は多い。
ボブ・ディランの『天国の扉』、
ウィルソン・ピケットの『ダンス天国』あたりがパッと思いつく。
わが友トモフスキーも『天国は天国じゃなさそう』という曲を唄っている。
そんななか、やはり天国という言葉がついた代表的な曲といえば、
レッド・ツェッペリンの『天国への階段』であろう。

こんなことを書いておきながらなんではあるが、
以前にもチラリと書いたように
僕はツェッペリン自体には何の思い入れもない。
ロックンロール音楽の歴史のなかで、
絶対に避けて通ることのできないバンドであるにもかかわらず、
僕は一度もツェッペリンに興味を抱いたことがないのだ。

僕がはじめてツェッペリンの名前を知ったのは、
2のときである。
4月、新しいクラスになり、
隣同士で紹介し合うことになった。

僕の隣の女子は、
母親が僕らが通っている中学の教師をしている、
いわゆる秀才の子だった。
1の頃から顔と名前は知っていたが、
口をきくのはこのときがはじめてだった。

好きな芸能人は誰?と紹介のための質問をしたところ、
その子は「レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ」とのたまった。
1979年の春。
まわりの女の子は原田真二だ、世良公則だ、チャーだ、
ジュリーだ、ゴローだ、ヒロミだ、ヒデキだと騒いでいた時代である。
「レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジ」というこの答えが、
いかにも「ワタシはほかの子たちとは違うの」といわんばかりの
なんともスカした感じがしたのだ。

ひょっとしたら僕がツェッペリンを好きにならなかったのは、
このときの原体験が影響しているのかもしれない。
事実、ツェッペリンというと、まずその子のことを想い出す。

その後、彼女とは大の仲良しとなり、
ダブルデートに誘われるようにもなった。
しかし、僕は彼女のことはそういう対象として見ていなかったので、
申し訳ないがお断りさせていただいた。

ダブルデート。
なんとも甘酸っぱい言葉である。
結局、僕は一度も経験することがなかったが、
中学時代にそんな機会があったら、
やっぱり上野動物園や国立科学博物館あたりに行ってたのかな?


2007.02