山下久美子「ソー・ヤング」

退職しようと思ったとき、
ふと頭をよぎったことのひとつが
「この考えは若すぎはしないか」ということだった。

要するに世の中には、
いろんな不満を抱えながらも
辛抱して勤めている人がたくさんいるわけで、
僕の「辞めたい」という気持ちが
いかにも未熟な人間の考えではないかと思ったのである。

しかし、結論はそうは思わなかった。
たしかに考えは若い=未熟かもしれない。
でも、それのなにが悪いのだという気分になったのだ。

おとといの夜、
CSで昨年4月に東京国際フォーラムで行われた
佐野
(元春)くんのライブが放映されていた。
そのなかで佐野くんは初期の『ソー・ヤング』という曲を唄う前、
こんなような
MCをした。

「僕はよく人に『佐野くん、その考えは若すぎるよ』っていわれるんだ。
でも『佐野くん、その考えは老けすぎているよ』といわれるより、よほどマシだと思う」


僕はまさに、そのとおりだと思った。
僕は自分が間違っていないと改めて確信した。

佐野くんの『ソー・ヤング』という曲は
198211月に発売された佐野くんの9枚目のシングル
『スターダスト・キッズ』のカップリング曲である。

しかし、僕はこの曲は
1年前から知っていた。
山下久美子の
3枚目のアルバム
『雨の日は家にいて』のオープニングナンバーだったのである。
この曲には佐野くんもコーラスで参加していて、
曲の出来自体としては山下久美子バージョンのほうが僕は好きだった。

佐野くんと山下久美子は同世代で、同時期にデビューした。
デビュー後、しばらくは共に新宿の“ルイード”で定期的にライブをしていた。
いわば同期の桜である。

しかも佐野くんたちがデビューした
1980年当時は、
まだまだロックがビジネスにはなっていない時代。
佐野くんも、山下久美子も、ある意味、
日本のミュージックシーンと戦ってきた戦友ともいえる。

たしか山下久美子のデビュー20周年を記念して
『ソー・ヤング』を再レコーディングしたという話を、以前聞いたことがある。
そのレコーディングには佐野くんも参加したそうだ。

それぞれ人生20年間分を積み重ねて、再び一緒に仕事をする。
なんて素敵なことだろうと思った。

退職する会社にも、
将来はまた一緒に仕事をしたいなと思う人間が何人かいる。
いつの日か、本当にそれが実現できたら、いいなと思う。

老け込んでいるヒマなどないのだ。


2007.05