山根麻衣「気分はフェアネス


昨日の夜、想定外の仕事の依頼があった。
某自動車メーカーの顧客に送る
12ページもののDM制作である。
デザインはほぼでき上がっているので、
明日の朝までコピーを入れていってほしいということだった。

クライアントという名の旦那衆に
「おい、こんな芸を見せてくれ。しかもいますぐ」といわれたら、
「へい、がってん承知」とただちに芸を披露するしかない広告芸人の僕は、
この仕事を引き受けた。
引き受けた以上は、ちゃんとやるのがプロである。
僕は約束通り
10時までにすべてのページのコピーを書き入れ、送った。

おかげでまだ平日の午前中だというのに、
もうひと仕事終えた気分である。
ひとっ風呂浴びてビールでもかっ喰らいたいぐらいだ。

今日、僕が仕事をさせていただいた自動車メーカーの新型車が
先月発表された。
その
CMで使われているのはオアシスの『ホワットエヴァー』である。
この曲はいい。
ロックンロール音楽の歴史に残る名曲だと思う。

が、
CMで使われるとなると話は別である。
この
CMをはじめて観たとき、
僕が真っ先に思ったのは「オアシスの『ホワットエヴァー』って、
前になんかの
CMに使われてなかったっけ?」ということである。

このCMを企画したクリエイターが、
どのようにクライアントを説得し、このような
CMになったかは知らない。
なので名もなき一介のクリエイターである僕がこんなことを言うのはおこがましいのだが、
なんか適当につくった
CMという気がすごくするのである。

オアシス好きの誰かが
「この
CMではオアシスの『ホワットエヴァー』で行きましょう!!」と提案して、
なにも考えずに勢いでつくった
CMとしか僕には思えないのである。

なぜか? 僕はクリエイターである以上、
常に新しい表現、いままでになかった表現を追求すべきだと思う。
その観点からいえば、過去に他の
CMで使われた曲など
真っ先にリストから外すべきだと思うのだ。

かつて資生堂やカネボウが毎年、
春夏秋冬のキャンペーン用に新しいキャンペーンソングを用意していた。
僕はそのキャンペーンソングを聴くたびに、
その頃、その時代の空気感を想い出す。

たとえば
1982年の資生堂の秋のキャンペーンソングは
山根麻衣
(現・山根麻以)の『気分はフェアネス』であった。
この曲も、秋になると聴きたくなる曲の
1つである。

この曲を聴くたびに僕は高校
2年生の頃の秋の自分を想い出す。
そして、
CM自体もいまも印象に残っている。

別に懐古趣味に走るわけではないが、
僕がまだ少年だった頃に比べると
いまは本当にいろんなモノが長く愛されないように感じる。
ロングセラーの商品はもとより、
ロングセラーのヒット曲というのもほとんど耳にしない。
いろんなモノがつくってはスグに捨てられ、
忘れられていくような風潮を感じるのだ。

だから広告クリエイターたちも、
「このぐらいでいいんじゃない」という広告づくりをしているように思う。
あくまで個人的な、勝手な意見ではあるが。

その姿勢が、日本の広告をダメにしているのではないだろうか?
以前と比べて、国際的に評価される日本の広告が少なくなっているというのも、
その
1つの現れのように感じる。

手抜きをするヤツは、とことん手抜きをすればいい。
そして堕落するヤツは、とことん堕落すればいい。

僕はそれを虎視眈々と狙っている。


2007.10