山本恭司「ピュア・ミュージック・ソウル」


日曜日の夜、吉祥寺まで出かけてきた。
エンケンこと遠藤賢司がさまざまなミュージシャンをゲストに迎えて
純音楽バトルを繰り広げる「純音楽の友」シリーズの第
6弾ライブが、
吉祥寺のスターパインズカフェで行われたのでホイホイと出かけてきた次第である。

この日のゲストは、海外でも高い評価を受けた和製ヘヴィメタルバンド
VOW WOW(BOW WOW)のギタリストである山本恭司。
ヘビィメタやハードロックはあまり得意としない僕ではあるが、
山本恭司は人生においてちょいとした接点を持っているだけに、
以前からなんとなく親近感を抱いていたミュージシャンである。

そのちょいとした接点というのは、こうだ。
あれは僕が
18歳のある日曜日のこと。
僕は友人と
2人で銀座のホコ天をブラブラしていた。
ら、ストリート・ミュージシャンが演奏をしていたので、
ついつい足を止めて聴き入っていた。
そのとき、チリチリパーマのロングヘアの男が
小さな男の子とともに僕の隣で立ち止まり、
熱心にストリート・ミュージシャンのパフォーマンスを見ていた。
その小さな男の子を連れたチリチリパーマの男こそ、
山本恭司その人だったのである。

接点というのは、ただそれだけだ。
しかし、僕のなかではこの
18歳の日曜日以来、
山本恭司はちょっとした知り合い感覚なのである。
そんなことは山本恭司はちいっとも知らんだろうが。

ところで山本恭司は、あの佐野史郎と高校の同級生である。
一緒にバンドも組んでいて、ホントかウソか知らないが、
佐野史郎が山本恭司にギターを教えたというハナシを聞いたことがある。
佐野史郎は以前にもチラリと書いたように不思議と僕と趣味がかぶるところがあり、
僕はあることから佐野史郎にサイン本をもらったことがある。
佐野史郎はいまも大好きな俳優であり、大好きなミュージシャンである。

銀座のホコ天と佐野史郎・・・この2つの接点を持つ山本恭司がゲストで出演するのだ。
僕は楽しみにしながら中央線に乗って、一路吉祥寺へと向かった。
が、楽しみにしすぎて少し着くのが早すぎた。
開場時間にはまだ余裕があったので、久々に吉祥寺をブラブラしてみた。
そのとき、西友の店頭で中古
CDやビデオのセールを行っていたのを発見した。
僕は中古
CDやビデオのセールとなると、どうしても素通りできないのである。
まるで宝探しをするようなワクワクした気持ちになってしまい、
ついつい足が向いてしまうのだ。

そこで発見したのが“TOMORROW 明日”のビデオである。
TOMORROW 明日”は“竜馬暗殺”や“祭りの準備”をはじめ、
数々の原田芳雄さん出演の映画を手がけた黒木和雄監督による
1988年の作品である。
もちろん原田芳雄さんも出演している。
先日「第
2回原田芳雄映画祭」の鑑賞作品として
同じく黒木監督の“父と暮らせば”を観たばかりだったこともあり、
ついつい買ってしまった。

TOMORROW 明日”には芳雄さんばかりではなく
佐野史郎も出演しているのである。
このタイミングで、この作品。
これを奇跡といわずして、なんといおうかってなもんだ。
その後、ホクホク顔でスターパインズカフェに向かったのはいうまでもない。

会場に入ると「男魂ハウリング」というこの日のライブの副題どおり、
エフェクターがズラリとステージにセットされており、
否応なしにエンケン
VS山本恭司の轟音バトルへの期待が高まった。

ライブの前半はエンケンによるソロ演奏が行われ、
その後満を持して山本恭司がステージに登場した。
山本恭司は僕が銀座で見たときと同じようにチリチリパーマのロングヘアで、
派手なベルボトムのパンツ姿であった。

山本恭司が登場するやいなや、2人は楽しそうに佐野史郎の話をしはじめた。
佐野史郎が好きだった女の子と山本恭司は交換日記をしていたらしい。
さらに次々と佐野史郎の高校時代の話が続くなかハプニングは起こった。

「ヤメロー!!」というヤジが飛んできたのである。
泉谷しげるのライブと異なり、
エンケンのライブでこういったヤジが飛ぶのは珍しい。
誰だ
!?と思ってその声の主のほうを見たら、佐野史郎本人であった。

佐野史郎は吉祥寺に住んでいるというハナシを聞いたことがある。
しかもエンケン
&山本恭司の競演である。
ひょっとしたら佐野史郎が来るのではないかと思っていたら、
本当にやって来ていたのだ。奥さんの石川真希さんも一緒だった。

僕はすごく得をした気分になり、いつも以上にライブを心から楽しんだ。

ライブで山本恭司はエンケンが標榜する「純音楽」に対するオマージュとして、
この日のために書き下ろしたという
『ピュア・ミュージック・ソウル』なる曲を
1人で演奏した。
エンケンの代表曲の
1つ『カレーライス』をモチーフとした曲だったのだが、
これが実に素晴らしかったのである。
山本恭司の音楽はこれまでほとんど熱心に聴いたことはなかったのだが、
ぜひまた聴いてみたいと思わせる名曲であった。

ライブのラストで『男のブルース』という曲を2人で演奏したのだが、
これぞまさに「男魂ハウリング」というにふさわしい名演奏が繰り広げられた。
ドラムを叩き壊すように叩きながら、
エンケンが山本恭司とアイコンタクトをしたときの目が忘れられない。
うれしそうにニッコリ笑ったその目は、まるで無垢な少年のようであった。

実はこの曲の演奏がはじまってすぐ、
エンケンはギターをローディの人につっ返すように渡した。
その際「ダメだ」というエンケンの声が聞き取れた。
きっとチューニングがちょっと狂っていたのだろう。
ライブの前半でもエンケンは、
モニターの音がおかしいといって調整してもらっていた。
僕の目に映ったそのエンケンの姿は、
まさに少しの妥協をも許さない真のプロの姿であった。

アンコールで『夢よ叫べ』を2人で演奏した後、
エンケンは「自分が調子悪いときって、ついつい他人に向けちゃうときがあるんだよね。
変な会話を聞かせてごめんなさい。これからもよろしくです」
というようなことを語った。
モニターやチューニングのことをいったのだろう。

やはり超一流の人ってのは、謙虚だな。
僕はそんなことを考えながら、吉祥寺の駅へと向かった。


2008.02