和田アキ子「さあ冒険だ」


昨日は、クライアントと飲みに行ってきた。
僕は仕事がらみの人とお酒を飲むのはあまり好きではないのだが、
そのご担当者とは不思議とウマが合うので、
仕事抜きで一度飲みに行こうと前々から約束していたのだ。

今年の1月、僕は業界最大手のD社との競合プレゼンに勝った。
僕がいま勤務している会社が
D社に勝つなどということは、
自分でいうのもなんだが大金星である。
常々「イコールコンディションで同じ土俵にさえ上がらしてくれたら、
D社にもH社にもオレは負けないよ」と広言を吐いていたのだが、
それを実現してしまったのだ。

プレゼン結果のご連絡をこのご担当者から電話で頂戴した後、メールが入った。
このご担当者からだ。
このメールで僕は
D社が今回の競合の1社だったということを知った。

このメールには、先ほど
D社にお断りの連絡を入れたという文章に続いて、
こう書いてあった。
「弊社は、
企業規模やイメージだけでお取引先を選ぶことはありません。
 純粋に、弊社と同じ目線、異なる視点で物事を考えていただける、
 パートナー企業様とお付き合いしていきたいと考えています。
 御社が同じように思っていただけることを、心から期待しています」と。

クライアントと同じ目線、そして異なる視点
・・・それは僕も常々心がけてきたことだった。

この人となら絶対にいい仕事ができる。僕はそう確信した。
そして、自分の広告人としての誇りをかけて、
この期待に必ず応えようと思った。

それから4か月。
いまではこのご担当者から個人的な相談もされるような信頼関係が築けた。
今週の水曜日の夜、このご担当者から僕の携帯にメールが入った。
なんでも会社で愕然としてしまうようなことがあったらしい。
「タカハシさんも仕事に対する感覚の違いを部下の方に感じることはありますか?」とあった。
僕はすぐさま返事を打った。
僕もそんなことはしょっちゅうですと。

事実、僕が勤めている会社の人たちの仕事に対する感覚の違いには、
愕然とさせられることが多々であった。
経営者からしてそうである。
広告をつくる者の責任というのがさっぱり感じられない。
だから、僕は退社するのだ。

生きている以上、誰でもイヤなことはある。
そのモヤモヤを誰かに話したいとき、
そのご担当者は僕に連絡をしてきたのだ。
僕はクライアントとそこまでの人間関係を築けたことがうれしい。

このご担当者には今週の木曜日に打ち合わせでお邪魔した際、
退職する旨を告げた。
ら、驚いたことに僕が退職することを、このご担当者は予感していたのだ。

女性の直感というか洞察力というか、なんというか・・・
それは本当にすごいものだと改めて思った。

それから今週は、もうひとつうれしいことがあった。
僕が勤務する会社のクライアントのなかで、
最も口うるさく手ごわい社長がいるのだが、
その社長がお酒の席でお店の女性に対して、
僕のことを褒めていたと聞いたのだ。

この社長は典型的なワンマン社長で、
自分がダメだといったら、絶対になんとかしてこいというタイプの方だ。
夜中の
2時にダメ出しをくらい、
「明日の朝まで直してもってこい」ぐらいのことは平気でいう。

しかし、僕はこの社長のことが好きだった。
理不尽なことはいっぱいあるのだが、
筋が通っているというか、
指摘されたポイントが納得できることが多々あったのだ。

僕はこの社長とは、一度も飲みにも食事にも行っていない。
いわばビジネス上だけの関係だ。
その関係のなかで、この超ド厳しい社長は僕の仕事ぶりを見て、
それをキチンと評価してくれていたのだ。
それはあと
1か月半で退職する僕にとって、何よりもの勲章に思えた。

木曜日の夜、専務に呼ばれて来週の月曜日に僕の退職の件を、
社員全員に発表することを告げられた。

いよいよである。

気分的には以前、ポンキッキーズでよく流れていた
和田アキ子の『さあ冒険だ』である。


2007.05