ヴァン・ヘイレン「キャント・ストップ・ラヴィング・ユー」


昨日の日記で「ロック座には目もくれず」と書いたが、
実は浅草のロック座に目をくれるどころか、入ったことがある。
しかも朝イチバンから。
「あんたも好きねぇ〜」とニヤリとしている読者よ
! 友よ!!
まあ、僕のハナシを聞いとくれ。

あれは去年の3月のことだった。
当時勤めていた会社の後輩・スズキくんが雑談のなかで、
一度もストリップに行ったことがないと話した。
僕は即座に「それはイカン
!!」といった。
そして「クリエイターたるもの一度はストリップというものを鑑賞しておきべきだ。
そうだ、オレが連れて行こう」ということになったのである。

浅草のロック座は場所も名前も知っていたのだが、
実は僕も入ったことはなかった。
なので、いい機会だからと言葉巧みにスズキくんをそそのかし、
その週末
2人でロック座に行くことにした。

ストリップといえば、忘れられないハナシがある。
あれは
19954月のあるよく晴れた土曜日、
ちょうど世の中がオウム真理教の話題でモチキリだったころのことである。
この日は、新宿あたりでナニかが起きる、と麻原彰晃が予言していた。
その予言に世の中はパニックになり、新宿のマイシティは臨時休館を決めた。
土曜日の朝だというのに東京が誇る一大繁華街・新宿は人通りもまばらで、
あちらこちらに機動隊の車や警察官の姿があり、
上空にはヘリコプターが何機も飛んでいた。
それはまるで戒厳令を敷かれたかのようであった。

僕はこの日、朝から新宿に出かけたのだ。
絶対にナニも起きるワケがない、起きてたまるものかという信念と、
そんなニセ予言者の言葉に右往左往する社会に対する批判的な気持ちから、
ならばオレが新宿に行ってナニも起きないことを確かめてやろうと思ったのだ。

そして、どうせ新宿で時間を過ごすなら、
こんな日に絶対に行かないだろうと人々が思う場所に行こうと思い、
ストリップ劇場を選んだ。
再び「あんたも好きねぇ〜」とニヤリとした読者よ
! 友よ!!
誓っていうが、僕はスケベ心を抱いて新宿のストリップ劇場に足を運んだワケではない。
これは僕からのオウム真理教に対する真面目な抗議行動だったのである。

薄暗い通路を通って劇場に入ると、すでに先客が何人かいた。
僕以外にも強者たちがいたのである。
僕はその強者たちにまじり、最前列で開演を待った。

ストリップというのは、基本的にダンスショーである。
まず踊り子さんが着衣のままアップテンポの曲に乗って舞台に登場し、
生き生きとしたダンスを披露する。
1曲目が終わると、次は曲調がミディアムテンポのものに変わる。
その曲に乗って今度は、
客席にいる男どもを挑発するかのような目線でダンスを披露するのだ。
この時点で踊り子さんは、まだ着衣のままである。

そして、3曲目。
いかにもというムーディな曲が場内に響き渡ると、
踊り子さんはさっきまでの生き生きとした表情や挑発的な目線を一変し、
切なげな表情を魅せる。
そうして
1枚、1枚と身につけているものを脱ぎ捨て、
舞台の上に寝そべり、麗しいおヌード姿を披露するのだ。

客席にいる男どもを忘我の境地へと誘うおヌードをたっぷり披露したあと、
踊り子さんはいったん舞台から去り、
そして再びアップテンポの曲に乗って舞台に登場する。
このとき観客の男どもは手拍子で踊り子さんを迎える。
手拍子で迎えられた踊り子さんは、
再び客席の男どもの目の前で美しいおみ脚を開き、
おヌードの真髄を魅せてくれるのである。

ハナシを
19954月の土曜日に戻す。
この日最初に出てきた踊り子さんが、ラストの場面の
BGMで使用していた曲が
ヴァン・ヘイレンの『キャント・ストップ・ラヴィン・ユー』である。
当時、よくラジオから流れていた曲だ。
僕が驚いたのは、この踊り子さん・・・ナント、男どもの前でおみ脚を開きながら、
この曲を口ずさんでいたのである。
劇場の外では、多くの人々が不気味な予言におののき、
不安なひとときを過ごしているというのに、
この踊り子さんは、そんなことはどこ吹く風とばかりにおヌードを披露しつつ、
きっとお気に入りなのであろうヴァン・ヘイレンの曲を口ずさんでいたのである。

うっすらと笑顔を浮かべ、僕の目の前でおヌードの真髄を披露しているその姿は、
まさに菩薩のようであった。
その姿を見て、ヘンないい方ではあるが、
僕は猛烈に「生きている」ということを実感した。
踊り子さんのおヌードを観ながら、
はちきれんばかりの生命の力を感じ取ったのである。

ストリップというと
男性の劣情を刺激するものというイメージをもっている方もいると思うが、
少なくとも僕にとってストリップとは性的な興奮をもたらすものではない。

スズキくんと一緒にロック座に行ったとき、
開演の
1時間前から入場し、最前列に座ろうとした僕に対しスズキくんは
「タカハシさん、恥ずかしいですよ」といって難色を示した。
僕は「バカヤロー
! ストリップってのは最前列で観てこそ、
その素晴らしさがより体感できるんだ
!!」と一喝した。

午後2時過ぎ。
すべての踊り子さんのショーを観終え、僕らはロック座をあとにした。
多くの人々で賑わう浅草を
2人で歩きながらスズキくんは
「いやぁ、実に素晴らしかったですね」と感想をもらした。

「なんていうか、一流のプロのパフォーマンスを堪能させてもらったという感じですね。
なんつぅか、いやらしさが不思議とないんですよね。
ストリッパーの芸に比べたら、キャバ嬢なんてド素人もいいとこですよ」と
口角泡を飛ばさんばかりに話し続けるスズキくんに対し、
僕は「だろ、だろ」とニンマリした。


2008.05