USAフォー・アフリカ「ウィー・アー・ザ・ワールド」

僕の友人で、最近バイクの中型免許を取ろうと
教習所に通い始めた女性がいる。
しかも齢
35にしての挑戦だ。
日ごろから「これをやりたい、あれもやらねば」と考えながら、
なかなか実行できていない僕からすれば、
その行動力には感服するばかりだ。

僕は別にバイクやクルマに全然興味がないわけではない。
事実、モータースポーツは二輪・四輪とも大好きである。
二輪でいえば僕が
10代の頃は、
片山敬済や平忠彦といったライダーが一世を風靡していた。
四輪に至っては、
F1はもとよりインディ500
ル・マン
24時間レースといった世界のビッグレースはもちろん、
国内レースもちょくちょく見ていたほどの
モータースポーツマニアである。

バイクといえば、僕が大好きなエピソードがある。
時に
1985年、USAフォー・アフリカによる
『ウィー・アー・ザ・ワールド』のレコーディングの際の話である。

このレコーディング当日は、
アメリカン・ミュージック・アワードの表彰式だった。
多くのスターたちが表彰式終了後、
リムジンに乗りスター然としてスタジオ入りしたなか、
ひとりだけ自らバイクを運転し皮ジャン姿でスタジオ入りした男がいた。

The Boss”ブルース・スプリングスティーンである。

聞いた話によると、スタジオに集まったアーティストのなかには、
この曲本来の主旨を忘れているようなお祭りムードの人たちもいたという。
それに激怒したのが、
このプロジェクトのきっかけともなった
バンド・エイドの提唱者ボブ・ゲルドフ。
彼は当日、ゲストとしてスタジオに招かれていたのだが、
その緊張感のなさにアフリカで起こっている惨状を
この日スタジオに集ったアーティストたちにとうとうと語り始めたそうだ。

そのボブ・ゲルドフがリハーサルの真剣さに圧倒されたと名を挙げたのが、
ダリル・ホールと我らがスプリングスティーンである。

スプリングスティーンは前年にリリースした“ボーン・イン・ザ・USA
全米で
1,200万枚、世界中でも2,000万枚という驚異的な売り上げを記録し、
まさに絶頂期にあった。
スターを気取ろうと思えばいくらでも気取れたはずだし、
スターを気取ったところでまわりも納得するような状況下にいたはずだ。

しかし、スプリングスティーンはそうはしなかった。

スプリングスティーンの歌に登場するのは、
アメリカのワーキング・クラスの人々が多い。
スブリングスティーンは、そうした人たちの姿を通して
リアルなアメリカを唄い続けてきた。
ワーキング・クラスのことを唄っているロックンローラーは
スプリングスティーン以外にもたくさんいるが、
僕はスプリングスティーンほどワーキング・クラスの人々から愛され
支持されたアーティストはいないと思う。

自分を見失わない。
これがいかに大切なことかはアタマではわかっていても、
まわりの状況が一変してしまえば、
ついついホイホイとそれに乗ってしまうのが人間だと思う。


スプリングスティーンとバイク。
僕の大切な人生訓のひとつである。


2007.04