谷山浩子「カントリーガール」


昨日に引き続き、僕が中2のときに出会った曲のハナシ。

谷山浩子の『カントリーガール』をはじめて聴いたのは、
俳優の大石吾郎が司会を務めていた
コッキーポップという番組にてである。
この番組のテーマソングは定期的に変わったのだが、
僕が中
23学期にテーマソングとなったのが『カントリーガール』なのだ。

 にぎやかな都会の景色は かわる万華鏡

 いつでもきみを驚かせる 七色プリズム

 きみはおふるのスカート はじらうように

 それでも瞳を輝かせて 街を歩いてたね

 カントリーガール きみの目のなかで夕焼けが燃える

 カントリーガール きみのほほえみは草原のにおいがする

 好きだよ

  (作詞・谷山浩子)

という歌詞が、やわらかくやさしいメロディラインに乗って唄われるこの曲は、
すぐに僕らのあいだで話題となった。
おまけに僕は当時、ある女の子に恋をしていたので、
よくこの曲を聴いては、その子のことを想ったものである。

しかし『カントリーガール』は、
ハッピーエンドな歌ではない。

カントリーガールが恋をして相手は、
長いタバコをくわえたキザな男だった。
そしてこのオトコから渡された
水色の封筒に入ったラブレターに書いてあったのが
「カントリーガール 君の目のなかで夕焼けが燃える
 カントリーガール 君の微笑みは草原のにおいがする 好きだよ」
という文章だったのである。

ここまでは、いい。
問題はその続きである。

まんまとカントリーガールを手に入れたオトコは、
それでもう満足したのだろう。
カントリーガールは、その
1週間後にオトコに捨てられた。
オトコは化粧のうまいおしゃれな女性に
さっさとのりかえたのである。
そしてふられたカントリーガールは、
鏡に映る自分自身に向かって、
いつしかオトコがくれた言葉を泣きながらつぶやく。
「カントリーガール 君の目のなかで夕焼けが燃える
 カントリーガール 君の微笑みは草原のにおいがする 好きだよ」


去年の
828日、テレビCMの日に放映された
伝説の
CMディレクター・杉山登志さんの生涯を描いたドラマの放送枠において、
泣きそうな顔の女性をモデルにした
「本日私はふられました」という
CMが流され話題を集めたが、
まさにその世界である。

この資生堂のCMは、泣きそうな顔を洗顔し、スキンケアをしているうちに、
主人公の女性がまた新しい明日へと向かっていくという予感をにおわせたものだったが、
カントリーガールはどうなったのだろうか?
カントリーガールのような純真な子を、
傷ついたままにしてはいけない。

実は『カントリーガール』には2つのバージョンが存在する。
1つは、前述のとおり鏡に向かって
かつてオトコがくれた言葉を泣きながらつぶやくところでおしまいのバージョン。
そして、もう
1つのバージョンは、歌詞が4番まであり、こう続く。

 僕は初めから終わりまで 君を見ていた

 真っ赤なルージュそっとひいてみて すぐに拭き取ったのも

 今すぐうしろをふり返れ 僕はここにいるよ

 僕が書いたあの手紙の言葉を もう一度きみに贈ろう

 カントリーガール きみの目のなかで夕焼けが燃える

 カントリーガール きみのほほえみは草原のにおいがする

 好きだよ


この歌には語り部がいて、
その語り部くんはじっとかげからカントリーガールのことを見守っていたのである。
これでカントリーガールは大丈夫!
きっとこの語り部くんが幸せにしてくれる。
めでたしめでたし。

なのだが、不思議なのは
「僕が書いたあの手紙の言葉を もう一度きみに贈ろう」という一節である。
たしかこのフレーズは長いタバコをくわえたキザなオトコが
カントリーガールに贈ったものではなかったか
!?
語り部くんは、キザなオトコに頼まれて、
口説き文句の代筆業をしていたのであろうか?

もしそうであれば、好きな女の子への口説き文句を代筆するなんて、
語り部くんもつらかったろうと思う。
僕なんか嫉妬心で狂い死にしそうだ。

このカントリーガールと語り部くんが、その後どうなったかはわからない。
男女の間なんて、強くもありもろくもあるのだ。

でも長いタバコをくわえたキザなオトコに負わされたカントリーガールの心の傷を、
語り部くんが癒してあげていて欲しいなと思う。

僕がこの曲を知ったころに恋していた女の子とは、
結局僕が最後はこの子のことを無視するようなカタチで別れてしまった。
このことを僕はいまも申し訳ないなと思っているのだが、
こういうことって女性のほうが男性より割り切りが早いので、
彼女はもうそんなことはとうに忘れているかもしれない。

この『カントリーガール』が収録されているLPも土曜日に見つけた。
値段はこれも
100円だった。
カントリーガールも、語り部くんも、そして僕が恋していたこの女の子も、
みんなそれぞれの場所で素敵な人生を歩いているといいなと
真夏のように暑かった土曜日の夕方、
夕日に染まった西の空を見ながら、そんな風に思った。


2007.06