谷村新司「群青」


先週の金曜日に書いた、
原田芳雄さんが出演する“スタジオパークからこんにちは”の放送は
明日に延期になってしまった。
国会中継のためである。
まったくこの国はいったいどうなってるんだと常日頃から思うこと多々な僕であるが、
最近はとみにそれを強く感じる。
政治の不毛ぶりはその最たるものであるが、
実は昨日もちょっとしたことでそう思わずにはいられなかった。

昨日のお昼頃、用事を済ませ、
暖かい春の日差しのなか「いい塩梅で」春日通りを歩いていたときのことである。
目の前のコンビニから幼稚園児らしき男の子が飛び出してきた。
僕は危ないと思い、前につんのめりそうになりながら止まった。
とっさに僕は舌打ちをした。反射的にムカついたのだ。

その子はそんな僕に気づくこともなく、
コンビニの前に蝟集していた園児仲間およびその母親たちと合流した。
母親たちも誰ひとりとして、
その子が危うく僕にぶつかりそうになったことに気づかなかったようだ。
次の瞬間、今度はその母親たちに猛烈に腹が立った。
子どもたちとその母親たちの自転車で歩道がふさがれ、通れなかったのである。

この相手が高校生男子の集団だったら、
僕は間違いなくつっこんで行って自転車を蹴散らす。
迷惑をかけている側がでかい顔をしているのが生理的に許せないのだ。
しかし、相手は幼稚園児とその母親たちである。
僕は自転車を蹴飛ばすかわりに、
いちばん歩道をふさいでいる母親に向かい
目一杯の悪意を込めて「邪魔なんスけど」と低い声でいった。
その母親はスミマセンともなんともいわず、逆に迷惑そうな顔で僕を見た。

その後、この腹立たしさはなんかチョット前にも経験したなと、
ムカつきながら考えていたら、しばらくして思い出した。
ある日、東京一小汚いが、
東京一美味しいビールが飲める上野の聚楽台に行ったときのことであった。
座敷に通された僕らの後ろには母親
2人と、その子ども4人がいた。
食事が運ばれてくる前から、
4人の子どもたちは座敷内と通路を走り回っていた。
通路は当然、店員さんたちも通る。
しかも両手に熱いものを持ってしょっちゅう行き来する。
ハッキリいって危ない。
万が一、店員さんが手にした丼を落とし子どもがヤケドを負おうものなら、
絶対に母親たちは黙っていないだろう。
だが、母親たちは子どもに注意するでもなく、
タバコをふかしながらビールを飲んでいた。

そんな子どもに対し、
店員さんは何度も何度も「危ないからね」と注意していた。
しかし、母親たちは相変わらずだった。
しまいにこの子どもたちは、僕らのテーブルのまわりで騒ぎはじめた。
うるさいし、落ち着かない。しかも危ない。
すべって転んでテーブルの角でアタマをぶつけたらどうするんだと思っていた矢先、
1人の子どもが転んで僕らにぶつかった。

僕はその母親の目を見た。というより、睨んだ。
いわゆる「ガンを飛ばす」というやつである。
しばらくして、僕の視線に母親が気づいた。
僕はすかさず、たたみかけるように「う、る、さ、い
!!」と声を出さずに、
口を大きく開けてその母親に訴えた。

「メーワクだったら、アンタらが出てけば」

その直後の母親の目は、そういっているように僕の目に映った。

「近頃の若い者は!!」ということは、いつの時代にもいわれてきたし、
きっとこれからもいわれると思う。
しかし「近頃の親は
!!」というようなことが目につくようになったのは、
そんなに昔のことではないような気がする。
モンスター・ペアレントなんて言葉が日本に定着したのは、
たしかここ
10年ぐらいのことではないだろうか。
僕が偉そうにいうことでもないが、なんとなくイヤな感じがしてならない。

子どもが誰かに迷惑をかけるのは仕方がない。
でも、親も一緒になって、
あるいはそれに輪をかけて迷惑をかけるのはどうかと思う。

僕が子どもの頃は、近所に戦争経験のあるおじいさんがたくさんいた。
バラガキだった僕が近所で悪さをすると、よく叱られたものである。
それはある意味、親に怒られるときより怖かった。

「日本はどこで舵を取り違えたのかね」というのは、
1981年に公開された映画“連合艦隊”で
小林桂樹さんが演じた山本五十六長官の台詞である。
この映画の主題歌は谷村新司の『群青』という歌で、
この曲をバックに戦艦大和が炎上し沈没していくラストシーンは、
当時
15歳の僕に戦争の悲惨さをまざまざと教えてくれた。

199310月に朝日新聞社の社長室で自決した新右翼の活動家・野村秋介氏は、
生前この曲を好み、よくこの曲を唄っていたと聞く。
僕は野村氏のすべての意見に賛同はできなかったが、
それでも生前の野村氏が語った憂国論には納得できる部分が数多くあった。

「日本はどこで舵を取り違えたのかね」

政治を見ても、身のまわりを見ても、
いま、なんか妙にリアルに響いてくる言葉である。

2008.03