TAK MATSUMOTO feat.稲葉浩志「勝手にしやがれ」


昨日の続き。
映画“寝盗られ宗介”を観た後、すぐさま“鬼火”を観た。
全編にわたり画面から緊張感が漂ってくる映画だ。
とてもダラけた気分で観る映画ではない。
僕は姿勢を正しくして画面に観入った。

この“鬼火”。ひと言でいってしまえば、ヤクザ映画である。
原田芳雄さん演じるムショ帰りの元ヒットマンが極道の世界に戻り、
そして極道の世界を追われ、愛する女性と殺された仲間の仕返しのために
またヤクザを撃ち殺すという話である。
よくあるストーリーといえばよくあるストーリーで、
話自体はさほど目新しさはない。
ヤクザ→カタギ→ヤクザという展開も、
かの金子正次の“竜二”をどことなく彷彿させる。

が、しかし、この“鬼火”は何度観ても強烈なインパクトのある映画であった。
まさに名作といっても過言ではない。

よくあるヤクザ映画のストーリーを、
なにがここまでの名作へと昇華させたのか
?
やはり役者だったと思う。
芳雄さんはいうに及ばず、脇を固めた哀川翔、奥田瑛二、
片岡礼子の演技が実に素晴らしかった。
奥田瑛二は以前から好きな俳優ではあったが、哀川翔はさほどではなかった。
どうも軽薄な演技が鼻について、あまり好きになれなかったのである。
が、この“鬼火”ではその鼻につく演技がうまい具合に中和され、
組織に翻弄される駆け出しの組長を上手に演じていた。
監督の演出手腕も確かだったのであろう。

片岡礼子は高級クラブでピアノを弾くアルバイトをしているとき、
芳雄さん演じる国広に見初められる麻子という役を演じていた。
クラブのママのはからいで国広は麻子を、
居候している坂田というゲイの部屋に連れて帰るが、
添い寝をするだけで手を出そうとはしなかった。

そして麻子は「殺したい男がいる」といって藤間という男の話をした。
妹に性的に辱めた挙げ句、妊娠・中絶させ捨てた男だった。
国広は拳銃を手に入れ、
麻子とともに藤間をひと気のない場所で半殺しの目にあわせる。
そのとき、この藤間に辱めを受けたのが、
妹ではなく麻子本人であることを国広は知る。

ところが、この藤間は
国広がお世話になっていた奥田瑛二が組長を演じている明神組傘下、
藤間組組長の実兄であったのである。
それが原因となって国広は明神組から破門され、
麻子とともに新しい部屋を借り、小さな印刷工場に勤めながらカタギの生活を始める。

しかし、国広の破門だけでは収まりがつかない藤間組は、
かつて国広が居候していた坂田の部屋を襲い、坂田を射殺する。

この坂田を演じたのが北村康、いまの北村一輝である。
北村一輝といえば、
2003年にフジテレビで放映されていたドラマ“あなたの隣に誰かいる”で
その存在を知った人も多いだろう。
夏川結衣演じる主人公を執拗なまでに追い回す狂気に満ちた演技は、
凄まじいばかりの迫力だった。

“鬼火”における北村一輝の演技も
実に役づくりがしっかりとされていて、
あらためて「怪優」北村一輝の存在感を僕に認識させてくれる。
なんでも北村一輝はこの役づくりのため、
本当に新宿二丁目に何週間も通ったという。
後日、望月監督に連れられて、芳雄さんのもとに挨拶に行った際、
北村一輝は役づくりに没頭していたため
黒いショートパンツ姿で現れたという。
そんな北村一輝を見て芳雄さんは、
本物のゲイを起用したと思ったというから北村一輝も大したものである。

前述のドラマ“あなたの隣に誰かいる”の挿入歌として使われていたのが、
TAK MATSUMOTO feat.稲葉浩志の『勝手にしやがれ』である。
TAK MATSUMOTOとはBzの松本孝弘で、
『勝手にしやがれ』はもちろん、あのジュリーこと沢田研二の『勝手にしやがれ』である。

たまたま5日の夕方、
CSで昨年1月に行われたジュリーの新春コンサートの模様が放映されていた。さ
すがにジュリーも昔に比べてかなり太っていたが、
歌声は昔のままだった。
コンサートは往年のヒットパレードという構成ではなかったので
はじめて聴く曲が多かったのだが、
そこはジュリーのコンサートである、十分に楽しめる内容であった。

アンコールで『TOKIO』を演奏し、これで番組は終わりかなと思っていたら、
聴き慣れたイントロがテレビのスピーカーから飛び込んできた。
『勝手にしやがれ』であった。
新春早々、ジュリーの歌声を聴けて、ましてや『勝手にしやがれ』が聴けて、
実にめでたい限りであった。
ジュリーにはロックンロールがやはり一番似合うと、あらためて思った。

ジュリーも今年は還暦である。
去年は年末に交通事故を起こしファンをびっくりさせたが、
今年はぜひ、音楽でファンを驚かせてほしい。

“鬼火”で、北村一輝演じる坂田を殺した藤間組の組長を演じたのが
山本竜二さんである。
山本竜二さんといってもピンとこない人も多いと思うが、
ピンク映画〜アダルトビデオの世界では一世を風靡した名男優である。
と、いっているが、僕は山本竜二さんのピンク作品を
1度も観たことがない。
芳雄さんも出演した映画“どついたるねん”で観たことがあるだけだ。

以前にもチラリと書いたが、
僕はピンク映画やアダルトビデオを熱心に観ることなく若い時期を過ごしてしまったのだ。
80年代のサブカルチャーをリアルタイムで体験する機会をみすみす逃していたのである。
いま考えても、実にもったいないことをしたと思う。

山本竜二さんには一度だけお会いしたことがある。
とある出版記念のイベントにゲストとしていらっしゃったのだ。
あれは
1999年の夏の終わりごろだったと思う。
このイベントに、僕は当時の同僚を連れて行った。
この同僚はアダルトビデオに造詣の深い男で、
山本竜二さんが出てくるなり大感激していた。
それほどのビッグスターだったのである。

このイベントで竜二さんは登場するやいなや、爆笑トークを連発した。
濃密な人生を送ってきた竜二さんの口から飛び出すエピソードの数々に、
会場は文字通り大爆笑の渦に巻き込まれた。

僕はそんな竜二さんの爆笑トークを聞きながら、
あらためて若い頃に山本竜二の作品を観る機会を逃したことを後悔したことを憶えている。

竜二さんのお話で印象的だったのは、大阪の西成の話である。
日雇い労働者の多いこの町は、
家がなくてオールナイトのポルノ映画館で夜を明かす人も多いという。
そんな町を竜二さんがたまたま歩いていると、
「あっ
! ポルノのスターや!!」とみんな大喜びなんだそうである。
「山本竜二が出てくると安心して観れる」という声も頂戴したそうである。
1か月働いても10万円そこそこのお給料のなかから1,500円払って映画を観てくれる。
そういう人たちに応援されるのは本当にありがたいといっていた。
どの世界にも、
そこに出てくるだけで人々を魅了するプロ中のプロというのはいるものなのだ。

山本竜二さんは、かの嵐寛寿郎の遠縁にあたる。
ブルース・リーの映画“燃えよドラゴン”を観て、
ハリウッドスターを目指そうと思った竜二さんは、
嵐寛さんを頼って大映京都撮影所の大部屋へ行き、
役者としてのキャリアをスタートさせる。
その後、メジャーな役者を志し上京したものの事務所が倒産。
風俗店の呼び込みをはじめ、さまざまな仕事をこなしながら
役者としての夢を捨てきれず
1日千円のやけ酒を新宿西口のしょんべん横丁でかっくらっていたという。

そんなとき、隣で客にからみ出すヤクザがいた。
夢半ばの毎日に苛立っていた竜二さんは、
ついカッとなりヤクザを一喝し、追い出した。
竜二さんに助けてもらった客が日活の外注制作会社の社員だったことから、
ピンク映画俳優・山本竜二が誕生する。

かつて竜二さんは2000年の1231日をもって引退したいと語っていた。
引退して奥さんと一緒に、新宿二丁目でお好み焼き屋を開きたいといっていた。
いまどうしているのだろうと思って検索をかけてみたら、
中野区大和町で居酒屋を経営しているらしい。プ
ロフィールも載っているので、まだまだ引退はされていないようだ。

それにしても竜二さんが経営する居酒屋なんて、実に楽しそうである。
機会があったら、ぜひ行ってみたいお店である。

こうして、僕の「2008新春・原田芳雄映画祭」は
実り多い一大イベントとして幕を閉じた。
229日生まれの芳雄さんは、今年は誕生日のある記念すべき年である。
芳雄さんが大好きなわりには、まだ観ていない出演作品も多い。
今年は時間の許す限り、芳雄さんが出演している映画を
1本でも多く観たいと思う。

“寝盗られ宗介”と“鬼火”の2本だけでも、
こんなにたくさんのエピソードを書きなぐれるのだ。
また違った作品を観たら、
また違ったエピソードが自分のなかで甦ってくるだろう。

2回・第3回の「原田芳雄映画祭」が楽しみである。


2008.01