T-スクエア「TRUTH」


ジーコにはじめて会った日、
僕は天にも昇るような気持ちで家に帰った。
心地よい五月晴れの
51日であった。
この夜は
F1サンマリノGPがあり、
とても楽しみにしていた。

放送が始まったとき、
なにやら雰囲気がおかしかった。
聞けばアイルトン・セナがレース中クラッシュし、
病院に搬送されたという。

金曜日にはジョーダンチームのルーベンス・バリチェロが
一時は意識不明になるようなクラッシュをし、
土曜日にはシムテックチームのローランド・ラッツェンバーガーが
予選中の事故で亡くなった。

そして、日曜日のセナのクラッシュである。

セナの訃報は放送中に届いた。
涙を浮かべながらふりしぼるようにコメントする
今宮純の姿を憶えている人も多いだろう。

僕はアラン・プロストのファンだった。
なのでセナはどちらかというと敵役だった。
セナに対する思い入れはなかったが、
それでも彼の死に対しては深い悲しみを覚えた。

僕はセナが負けるところを見たかったのである。
セナをこてんぱんに負かすドライバーの出現を望んでいたのである。

後にワールドチャンピオンとなるミハエル・シューマッハも
デーモン・ヒルもミカ・ハッキネンも、
この時点ではまだまだ発展途上であった。

セナと一緒にいち時代を築いたアラン・プロストは引退し、
ナイジェル・マンセルは
アメリカのインディレースへと活躍の場を移していた。
だからこそ、セナにはまだまだがんばって欲しかった。
F1界の巨星としてさん然と君臨し、
次の世代のチャンピオン候補たちと
F1史上に残るようなバトルをくり広げて欲しかったのである。

プロストとセナは仲が悪いと伝えられていたし、僕もそう思っていた。
しかし、セナの追悼番組で
プロストがセナに対して深い理解を示しているコメントを聞き、びっくりした。
さらにこのレース当日の朝、
セナはウォームアップ走行時
フランスのテレビ局
TF1の中継でコース解説を行う際、
解説者としてサーキットに来ていたプロストに対し
「親愛なるアラン、元気かい?
君がいなくて寂しいよ」とメッセージを送っていたのだ。

僕は後日、その模様をテレビで観て、
不覚にも涙がこぼれて仕方なかった。
いや、いまこの文章を書いているだけで
また涙がにじんできた。

セナとプロストは本当に深いところでお互いを認め、
理解し合っていたのだと思う。
それは僕のような凡人にはわかり得ない、
高い次元での友情だったのだ。

セナの訃報が届いたとき、
今宮純は涙ながらに
「・・・セナはいませんが・・・
F1は続いていくわけです・・・」と語った。
セナがいなくなって早
13年。
2007年のF1シーズンが、もうすぐ始まる。

F1に関連する音楽といえば、
やはり
T-スクエアの『Truth』を抜きにしては語れない。
T-スクエアの『Truth』といえばF1だし、
F1といえばT-スクエアの『Truth』なのである。

ここまでイメージが定着してしまうと、
もはやひとつのブランドである。
聞くところによると、
今年から
F1中継は新しいテーマ曲となるという。
この一大ブランドを超える名曲が今年の
F1中継から生まれるのか?
フジテレビが中継を始めてから21年目を迎える2007年のシーズンは、
実に楽しみの多いシーズンである。


2007.03