スティング「オール・ディス・タイム」


最近、大きな地震が多い。
325日の能登半島地震に続き、
この日曜日には三重県で震度
5強の地震があった。

僕は地震とスズメバチが世の中で何より怖い。
その僕が先日、
近所に地震体験車が来ていたので乗せてもらった。
震度
6の揺れはかなりのもので、
本当にこんな揺れがきたらメチャメチャ怖いなと改めて実感したものだ。

地震体験車のなかで僕は揺れている間中ずっと立っていたのだが、
体験車を降りるときに
「本当に地震が来たとき、いまのように立っていたら大ケガしますよ」と
消防署の人に怒られてしまった。
たしかに、そうだろう。
というより、僕なんかは怖さのあまり腰を抜かしてしまうかもしれない。

地震は、それほど大嫌いなのだ。
震災に遭われた方々には心からお見舞い申し上げるが、
僕はできれば大地震は体験したくない。

ハナシは変わるが、
僕は昔からナポレオンフィッシュが大好きである。
が、実物を見たことがなかった。
で、いろいろと調べてみたら葛西臨海公園の水族館に
ナポレオンフィッシュがいるとの情報をキャッチした。

もちろん出かけた。
時に
2005723日土曜日の午後だった。

ナポレオンフィッシュはそこに確かにいた。

が、このナポレオンフィッシュ、
はじめは元気そうにしていたのだが、
見ているうちにみるみる元気がなくなり、何かを吐いた。
その後、ほとんど動かなくなった。
いったいどうしたのだろうと心配しながら、
飽きもせずナポレオンフィッシュをずっと見ていたのだが、
閉館時間が近づいてきたので、水族館をあとにした。

外に出てタバコを吸っていたら、グワンと大地が揺れ、
公園内の水がバサーンという感じで、飛び散った。
地震だったのである。

千葉県北西部を震源とするこの地震は、
東京の足立区で震度
5を記録するなど、かなり大きなものだった。
首都圏の交通網は一気にマヒし、
僕はバスと電車を乗り継いでやっとこさ帰宅したことを憶えている。

帰宅途中、ひょっとしてあのナポレオンフィッシュは
地震が来るのを予感していたのではないかと思った。
それで、急にあんなに具合悪そうになったのではないかと思ったのだ。

果たしてナポレオンフィッシュに地震予知能力があるのかどうかわからないが、
少なくても僕のなかではあのナポレオンフィッシュは
地震がくるのを察知していたと信じている。

一方、スズメバチを怖がるようになったのは、
小学校の
5年生か6年生のときである。
わが家にでっかいスズメバチの巣ができたのだが、
ある日、僕は近所の子どもたちと
その巣をめがけて石を投げ攻撃するという暴挙に出たのである。

怒り狂うスズメバチたちは、僕らめがけていっせいに反撃を開始した。
その何十匹というスズメバチが僕めがけて飛んできたときの恐怖は、
後の僕の人生を決定づけた。
以来、僕はスズメバチが怖くて怖くて仕方ない。

このスズメバチの猛反撃により1人が刺された。
僕はそいつに向かって一匹のスズメバチが近づいていったシーンを
まるでスローモーションのように憶えている。
危ないと思った次の瞬間、そいつは大声で泣き出した。
刺されたのは腕で、すごく腫れ上がったものの、
大事にはいたらなかった。
スズメバチの毒は、刺された部分によっては命にかかわる。
僕はなんて無茶なことをしたのだろうと、
いま思い出してもゾッとする。

今年の2月、第49回グラミー賞の授賞式で
突如として再結成したポリスのスティングは、
いつも黄色と黒の縞模様の洋服を着ていたことから、
スティングと呼ばれるようになったというのは有名なハナシである。

1983年のポリスの活動停止後、
ソロとしてキャリアを重ねてきたスティングのなかで、
僕がいちばん良く聴いたのは
1991年にリリースされた
スティングの
3枚目のソロアルバムに収録されていた
『オール・ディス・タイム』である。

あの2001911日のNYテロの当日、
スティングはイタリア・トスカーナの自宅で
プライベート・コンサートを予定していた。
そこに飛び込んできたのが、
NYの惨劇である。

聞いたところによると
スティングはコンサートを中止しようと考えたらしい。
しかし、メンバーのなかから
「ここでメッセージを残さなければ我々はさらに空虚になる。
むしろそのことが敗北なのだ」という意見が出、
予定通りコンサートは実施されることとなった。

この日の模様は、
“オール・ディス・タイム”というタイトルで
DVD化されている。

以前にも書いたが、
阪神淡路大震災のときビリー・ジョエルは来日中で、
自身も大阪で地震を体験した。
震災から
2日後の119日、
大阪城ホールで予定されていたコンサートは、
予定通り行われた。
会場の約
4割は空席だったらしい。

コンサート終了後、ビリー・ジョエルは
「この席に座るはずだった人たちは無事だったのだろうかと思うと、
涙がこみ上げてきて唄えなかった」とコメントしたと聞いた。
そしてコンサートの終了後、
ギャラの半分を被災者のために寄付したという。

ロックンロールで世の中を変えることはできないかも知れない。
でも、僕は打ちひしがれた人々が
ロックンロールによって励まされることを信じたい。
被災者でもなんでもない僕がこんなことをいうのは無責任に聞こえるかもしれないが、
僕はプロのミュージシャンとして
スティングやビリー・ジョエルの行動は正しかったと、いまも信じている。


2007.04