サンハウス「風よ吹け」

鮎川誠が在籍していたサンハウスが再結成したのは、
1983年の夏であった。
日比谷の野音で行われたライブの模様は
“クレイジー・ダイヤモンド”という
ライブアルバムとなって同年発売された。

が、このライブアルバム、どういうわけか
レコードは曲が編集された
1枚モノで、
カセットテープだけが完全収録版であった。

幸運にもサンハウスの再結成ライブを体験することができた僕は、
「あの興奮をもう一度」とばかりに、
発売されるやいなやさっそく買い込んだ。
もちろんカセットテープをである。
買ったのは、新宿の靖国通り沿いにあった新星堂だったと思う。

サンハウスの再結成ライブは、本当にすごかった。
すごいライブはいままで数多く体験してきたが、
そのなかでもサンハウスのライブは強烈に印象に残っている。
いわば恐怖すら覚えるようなバンドだった。

まず、菊ことヴォーカルの柴山俊之がステージに登場してきたとき、
ホンモノのヤバイ人間だけが持つ圧倒的な存在感にまずビビらされた。

上半身裸に黒の革パン。
イギー・ポップの顔負けのスタイルでタバコをくわえながら登場した菊は、
吸っていたタバコを客席に向けてポイッと飛ばした。
そのタバコは僕の目の前に落ちた。
よっぽど記念に拾おうかと思ったが、
ヘタに拾ったら怒鳴られそうで怖くて拾えなかった。
銘柄はわからなかったが、
茶色のフィルターのタバコだったことを憶えている。

そして演奏が始まると、
菊のハスキーで野太いヴォーカルに、今度は脅しまくられた。
掛け声でもかけようなら、ぶん殴られそうな雰囲気だった。

サンハウス解散後、菊は作詞家として活動していた。
僕は、こんなすごいヴォーカリストが
自分で唄わず他人に詞を提供しているだけなんてもったいないなと思いながら、
威圧感十分のサンハウスの演奏に聴き入った。

なかでも圧巻だったのは『風よ吹け』である。

 
 まわりはみんないい人だらけ

 まるで自分のことみたいにやさしくしてくれる

 そんな素敵なところさここは

 だから俺はここにいるのがたまらない

 とても幸せそうに笑ってみせた

 俺にできることといったらそれくらい

 生あたたかい空気が俺を包んでる

 だから俺はここにいたくない

 風よ吹け吹け 風よ吹け 俺をどこかへ飛ばしておくれ

 雨よ降れ降れ 雨よ触れ 俺をどこかへ流しておくれ

  (作詞・柴山俊之)

菊の詞は「俺のカラダは黒くて長い」(キング・スネーク・ブルース)
「俺の壊れた蛇口から吹き出る不純な飲料水」
(ビールス・カプセル)
「いまにもはちきれそうに熟した僕のレモン」
(レモンティー)などのように
性的なものを想起させるような描写で知られるが、
この曲はボヘミアンな香りにあふれている。

たとえ居心地のいい素敵なところであっても、
生あたたかい空気がまわりを包むようになったら、
それは堕落の第一歩なような気がする。

不惑の四十も2年目、しかも厄年。
年齢的に考えてみても、
僕もそろそろ安定を求めなければいけないのかも知れないが、
どうもそういうのは性分に合わないようだ。

やっぱり僕は「ワイルドサイドを歩け」なのだ。


2007.03