芝田洋一「酒もってこい」

よく津軽三味線はロックだという人がいるが、
津軽三味線をロックにとり入れた名曲が
芝田洋一の『酒もってこい』である。

「生きてるということは
 ただもうそれだけで
 うれしいことだと言っては酒を飲むおまえ」
(作詞・芝田洋一)
という歌いだしではじまるこの曲は、
ヤマハ主催の第
18回ポプコンの優秀曲賞受賞曲で、
ポプコン受賞曲ばかりを集めた
POPCONシングルコレクション80’s”という2枚組のコンピレCD
ディスク
1の一発目を飾っている。

POPCONシングルコレクション80’s”には34曲が収められているが、
そのほとんどは
1曲だけで終わってしまっている。
ポプコンはアマチュアミュージシャンの登竜門として
70年代〜80年代、
大いに注目を集めたコンテストであるが、
時代の変遷とともにその輝きを失ってしまった。

アマチュアとプロの違いはなにかといったら、
僕はアベレージだと思う。
一発ヒットだけなら誰もがチャンスはある。
ビギナーズラックという言葉もあることだし。
だが、それを継続して常にコンスタントに数字を残せなくては、
プロとしてやっていけない。

宣伝会議という広告の専門雑誌が
毎年キャッチコピーコンテストを行っていて、
プロ・アマチュアを問わず、
多くの人々が頭をふり絞って考えたキャッチコピーで応募している。
後輩コピーライターのスズキくんも、その1人である。

「タカハシさんも送ってみたらどうです?」といわれたが、
僕はそういうモノにまったく興味がない。
素人にまじってそんな一発勝負をしたところで、
そして仮にそれが評価されたところで、
僕にとっては何の意味もないのである。

実際このコンテストでは、
プロたちを押さえてアマチュアの書いたコピーが受賞することも珍しくはない。
しかし、その人たちが真価をとわれるのは、それ以降だと思う。

その後もクライアントという旦那衆が求めるどおりの芸を披露し、
消費者にとって有益なメッセージを届け続けなければならないのだ。
そこで仕事のデキにバラつきがあってはいけない。
常に及第点以上のものを提案し続けられないようでは、
プロとしてやっていくのは難しいと思う。

バカなクライアントに限って、
コピーを素人考えでいじりたがる。
ついつい自分もコピーライティングをやってみたくなるのはわからないでもないが、
素人はしょせん素人なのである。

僕のキャリアのなかで、いちばん腹を立てたのは、
とある財団法人の仕事だ。
その財団法人の会員向けに
結婚案内のパンフレットをつくっていたときのこと。
僕が書いた「ありがとうの気持ちを」という部分を、
Thank Youの気持ち」に変えろといってきたのだ。

僕はその指示をそのまま聞いて帰ってきた営業の人間を怒鳴り散らした。
自分の原稿に修正を加えられたからではない。
結婚式で果たして感謝の気持ちを表す言葉として
Thank you」なんていうだろうか?と思ったからだ。

後日、この財団法人は理事長の横領が発覚。
政界を巻き込んだ一大事件となった。
人から集めたカネで、好き放題やっているような組織だからこそ、
結婚式のパンフに「
Thank you」なんて言葉を平気で加えようと考えるのだろうなと、
僕はそのニュースに触れヘンな納得の仕方をしたことを憶えている。

僕も広告業界に入ってから、早20年以上。
なんとかいままでプロとしてやってこられた。
しかし毎年、ルーキーは誕生するし、後輩たちは成長する。
プロとして同じ土俵で闘い続けるためには、
いつだって彼ら彼女らに負けないものを創造し続けなければならない。

生涯現役!まだまだこれからだ!!


2007.02