シェリル・クロウ「ソーク・アップ・ザ・サン」


先週の日曜日、
浅草・三社祭見物に向かう前に聴いていたのが
アメリカを代表する女性シンガーソングライターの一人、
シェリル・クロウの『ソーク・アップ・ザ・サン』である。

この日は朝から
100%の五月晴れで、
聴いているうちに心がワクワクしてきた。
日曜日・五月晴れ・三社祭・・・これだけでも心は躍ろうかというところに
シャリル・クロウの『ソーク・アップ・ザ・サン』である。
気持ちよくないわけがない。

雲ひとつない東京の空を見上げながら、
僕は大きな気持ちで広大なアメリカ大陸に思いを馳せた。

さて昨日、F1モナコGPについて書いたが、
今週末はモナコ
GPと並んで世界三大レースのひとつに数えられる
インディ
500も同日に開催される。

インディ
500は米国インディアナ州インディアナポリスのある
インディアナポリス・モーター・スピードウェイを舞台に
毎年
5月最終週「メモリアルデー・ウィークエンド」に開催されるアメリカ最大のレースで、
決勝当日の観客数は
40万人とも60万人ともいわれている。

このインディ50012.5キロの楕円型(オーバル)コースを200周、
距離にして
500マイル(800キロ)で争われ、
以前は
TBSが完全生中継をしていたものだ。

しかもこの中継、
レース前のセレモニーからレースの終わりまでをちゃんと完全中継してくれるという、
実に気のきいた生中継であった。

自身が電波芸者となってしまった筑紫哲也に
TBSは死んだ」などといわれる以前のことである。

このレースの実況をしていたのが
石川顕さんという
TBSのアナウンサーなのだが、
僕はこの人の実況が大好きであった。
レースに対する情報を的確に伝えるとともに、
レースそのものの雰囲気を壊さない実況をしていて、
観て
(聞いて)いてとても気持ちよかった。

古舘伊知郎がF1の実況をしていた時期があったが、
僕は彼の実況が大嫌いだった。
彼以降、彼のスタイルだけを真似て
ただ絶叫すればいいというようなスポーツ実況が増え、
僕はうんざりしていたものだ。

サッカーの中継も聞くに堪えない実況をするアナウンサーが多い。
某オリンピックのサッカー中継で
「ゴォーーーール」という言葉を
20数回連発したアナウンサーがいたが、
彼などは騒々しいだけのバカアナウンサーの最たるものだと思っていた。
後に彼は、セクハラによって自らの存在が世間を騒がせてしまった。
皮肉なものである。

僕が思うにスポーツ実況は「客観報道」の場であって、
自己アピールの場ではない。
同じ連呼をするにしても、
1936年のベルリンオリンピック中継時での
河西三省アナウンサーによる「前畑ガンバレ」と、
いまの絶叫型実況とでは基本的な何かが違う。

伝わってこないのだ。
見え見えの自己演出が先に立ってしまっているのだ。

それは広告の世界でも同じことがいえると思う。
つくり手の小手先の演出など、
消費者はいともたやすく見抜いてしまう。
だからこそ、広告表現の
1つひとつに
僕は必然性がないとダメだと後輩たちにいう。

よくデザイナーが「ここのスペースがさみしいので
コピーを追加したい」といってくることがあるのだが、
僕はそこにコピーを置く理由と、
コピーで語るべきことが明確でない限り、
その要求には応えない。
徹底的に議論して、安易な広告づくりをやめさせる。
間が持たないなら持たすようにする
・・・そこでデザイナーは悩み苦しむべきだと思う。

それはクライアントから予算を預かって
広告づくりを担っている者の責任ではないだろうか?

僕がいま勤めている会社を退職しようと思った大きな理由のひとつに、
この広告に対する哲学の経営者側との相違が挙げられる。
経営陣はクリエイターたちに対して早く仕事をフィニッシュして、
次の仕事にとりかかることを第一義としているのだ。
となると当然、じっくり考える時間も、
事前にリサーチする時間も限られてくる。
さらにいえばデザイン的につくり込む時間は
もったいないと考えられてしまう環境なのだ。

以前あるデザイナーが、
専務に「仕事が遅い」といわれたと僕にいってきたことがある。
このデザイナーはどちらかというとデザイン的につき詰めるタイプのクリエイターで、
僕はその姿勢を高く評価していた。
しかし、会社側としては、
デザイナーとして一番重要な作業をムダと評価したのだ。

それでは伸びるクリエイターも伸びなくなってしまう。
創造における環境の大切さを、あらめて考えさせられた。

インディ500500マイルの最後の数センチ、
0.0何秒でウィナーが決まることが珍しくない。
極端なことをいえば全
200周のうち199周をトップで走り、
最終ラップの最終コーナーをトップで通過したとしても、
最後の数秒で優勝をさらわれることが珍しくない世界なのだ。

広告づくりもそう。
最後のツメが甘くて、
時間をかけてつくり上げてきた広告を
ダメなまま世に送り出してしまうということもある。

が、これではいけない。
プロである以上、やはり高い志と厳しい姿勢で仕事には臨みたいものだ。

インディ500のレースで表彰されるのはただ一人、ウィナーだけだ。
F1をはじめとする他のモータースポーツのようにシャンパンファイトはない。
そのかわり、牛乳を一気飲みするのだ。

800キロ・・・東京から広島までを約3時間で走り抜いたあとに飲む
勝利の美酒ならぬ勝利のミルク。
大仕事をなし遂げたあとに口にするものは、
牛乳であれなんであれきっと格別な味がするのだろうなと思う。

僕もそんな経験を、いい仲間たちといっぱいしたいものだ。

シェリル・クロウの唄う『ソーク・アップ・ザ・サン』のように、
燦々としたとした太陽をいっぱい浴びるのだ。


2007.05