里見浩太朗・大和田伸也「あ人生に涙あり」


今日、打ち合わせから帰ってきたら、
志摩観光ホテルの方から暑中お見舞いが届いていた。
志摩観光ホテルへは一度も行ったことがない。
のに、なぜ暑中お見舞いが届くのか
?

実は昨年、とあるクレジットカード会社が
上顧客向けに高級ホテル
&旅館の紹介パンフをつくり、
その仕事をお手伝いさせていただいた際、
何度かメールと電話で志摩観光ホテルの方と
やりとりをさせていただいたのだ。
その後、ご丁寧にも折にふれ、
このように挨拶状を送ってくださっている。

この仕事も本当に大変であった。
60ページぐらいで、
掲載するホテル
&旅館の数がページ数以上にあった。
その
11館に僕は質問シートを送付し、
その回答をもとに行ったこともない
ホテル
&旅館の紹介コピーを書いたのだ。

さらに僕はクリエイティブディレクターとして、
パンフレット全体のデザイントーンのディレクションも兼務していたので、
その仕事量たるやハンパではなかった。

そもそもこの仕事は、
最初から僕が勤務していた会社に発注がきたワケではなかった。
広告代理店数社がプレゼンをしたなかで、
このコンペに勝ち抜いて頂戴した仕事なのだ。
最初から発注を受けた仕事もそれはそれでありがたいし一生懸命にやるのだが、
コンペに勝ち抜いて取った仕事というのはまた格別なやりがいがある。

この仕事は結局、
4ヵ月近くかかってしまったのだが、
終わったときはさすがにやり抜いたという充実感があった。

後日、この仕事でうれしかったことが3つある。
1つは、僕らが制作したパンフによって
各ホテル
&旅館を訪れたお客様が数多くいたこと。
もう
1つは、共に苦労して
このパンフをつくり上げてきたクライアントのご担当者が、
自社のリクルート用のホームページにて
「最近担当した仕事で一番印象深いもの」という問いに、
この仕事を挙げていたことである。
僕はこのホームページを保存し、いまも宝物にしている。

そして最後の
1つが、志摩観光ホテルのご担当者のように、
それ以後もご連絡をくださるホテル
&旅館の方がいくつかあったことだ。

むろん先方もサービス業なので、宣伝を兼ねてのことではあろう。
しかし、僕にとっては、それは宣伝物ではなく親書だと思っている。
残念ながら、このパンフに掲載されたホテル
&旅館は、
志摩観光ホテルのみならずどこにも一度も行っていない。
でもいつか、一生懸命働いて、お金をためて、
こうしたホテル
&旅館を訪れられるようになりたいと思う。

いま僕が手がけているのは、
とある公共施設の
VIがらみの仕事である。
今までデザインのトーンが制作物によってバラバラだったものを、
ツールの
1つひとつをリニューアルするなかで統一していきたいというのだ。
いってみれば、これから
5年・10年と続いていくデザインイメージの
土台づくりを任されているということになる。
それはやりがいがあるし、
この仕事が僕にとっても大きな実績になればいいなと思っている。

僕にとってアドマンとしての栄誉とは、
なんとか広告賞を取ることなんかではない。
そんなものは全然興味がないし、実際一度も応募したことがない。
それより僕がつくった広告・宣伝物を消費者が見て
ここに行ってみようだとか、これを買おうだとか思ってもらえる広告づくりをし、
結果クライアントにも喜んでもらえるのが最高の栄誉である。

そんな仕事をこれからもたくさんしていきたいなと
今日、届いた暑中お見舞いを見あらためて思った。

ところで、このパンフレットの仕事を手伝ってくれたデザイナーの1人は、
昨年末で退社した。
社内恋愛
&できちやった婚による寿退社である。
そしてこの
3月、1児の母となった。

先月、僕が退社する当日、
この元デザイナーにして
1児の母は、わざわざ僕に連絡をくれた。
そして、この仕事の想い出話となった。
「タカハシさん、あのときどこのホテルが何ページにあるか全部憶えてましたもんね。
いま振り返っても、あれはスゴイ仕事ぶりでした」と彼女はいってくれた。
それは僕にとって、何よりの賞賛だった。
この仕事を通じて、
4つ目のうれしいことだった。

彼女の子どもは葵と書いて「あおい」という。
男の子でも女の子でも、この名前にしようと夫婦で決めていたらしい。

葵といえば徳川家の家紋、
水戸黄門の印籠にも描かれているアレである。
そういや彼女の旦那は茨城県出身なので、
ひょっとしたら本当に水戸黄門からとったのかも知れない。

水戸黄門の主題歌『あゝ人生に涙あり』は、
さまざまな人が唄っているが、
僕がいちばん記憶しているのは里見浩太朗と大和田伸也が
助さん・格さんをやっていたときのものである。
黄門様は東野英治郎さんであった。

「泣くのが嫌ならさあ歩け」(作詞・山上路夫)という歌詞は、
子どもの頃から好きだった。
しっかりと行動した者だけが、喜びを味わえるのだ。

僕はこれからも歩き続ける。


2007.08