三遊亭円丈「恋のホワン・ホワン」


先日書いた“ラヴ・レターズ”についての日記に寄せられた
マイミクのことぶきさんのコメントに対して、
佐野史郎
&石川真希ご夫妻の名前を挙げたところ、
ナント偶然にも先週の金曜日ご本人たちにお会いした。
「日本列島星降る夜は心にしみじみ」と銘打たれた
エンケンこと遠藤賢司の
2年ぶりのクリスマス定食ディナーショーの会場にてである。

このクリスマス定食ディナーショーは
「クリスマスというとやれフランス料理だとかいって、
高いお金を出して味もたいしてわからないようなものを食べるより、
やっぱり日本人だったら定食でしょ」というエンケンのコンセプトに基づいて企画されたもので、
今回は牛すき焼き定食と柳葉魚天ぷら定食の
2種類が用意されていた。
魚がまったく食べられない僕は、もちろん牛すき焼き定食を頼んだ。
開演前に出されたすき焼き定食は、素朴な味でとても美味しかった。
さらにゴハンが、かつてエンケンが渋谷で開いていたカレー屋
「ワルツ」名物のピラミッドカレーのように
ピラミッド型に盛られていたのがとてもうれしかった。


開演前、僕の隣でこの日のゲストでもある
DJのサミー前田氏が
懐かしい昭和歌謡やポップスをかけていた。
僕もこの手の音楽にはそこそこ詳しいほうだと思っていたのだが、
はじめて耳にする曲もかなり多かった。

「むむむ、これはなかなかコアな選曲だぞい」と思いつつ、
それらの音楽に耳を傾けていたら、なにやら聴き覚えのあるイントロが流れてきた。
かつてこの日記でもとり上げたことのある
ニック・ロウの『恋するふたり』のイントロである。
そのイントロを聴きながらてっきり『恋するふたり』を
誰かがパクった曲が流れていると思ったのだが、
曲が進むにつれそのメロディラインがニック・ロウの曲とまったく同じであることに気づいた。
聴き慣れた『恋するふたり』のメロディラインに乗って
「ハートがホワン、いつでもホワン・ホワン。
 ハートがホワン、どこでもホワン・ホワン。
 ハートがホワン、止まらずホワン・ホワン。
 
Oh Baby、君にお手上げ」(作詞: 有川正紗子)などと唄われているのである。

聴いているこっちの脳みそがホワン・ホワンになりそうな、
それは凄まじいカバーソングであった。

歌声はどことなく、みうらじゅんのような感じがした。
みうらじゅんなら、いかにもやりそうな曲である。
が、このままでは真偽のほどを確かめようがない。
まったく自慢にはならないが興味をもったことに対する探究心は、
人一倍どころか
510倍も旺盛な僕である。
僕は意を決して、隣にいるサミー前田氏に声をかけた。

「この曲はニック・ロウの『恋するふたり』ですよね。
いったい誰がカバーしてるんですか
?

この突然の僕の問いかけに対し、
サミー前田氏はイヤな顔ひとつせずにそのレコードジャケットを見せてくれた。
この摩訶不思議なカバーソングの歌声の主は、落語家の三遊亭円丈師匠であった。

円丈師匠は中学3年生のときに、テレビの演芸番組ではじめて知った。
着物にローリング・ストーンズのベロマークをつけてという特異ないでたちで
グリコのおまけや卵かけごはんについて熱く語る円丈師匠は、
まさに落語会におけるパンク的な存在であった。
僕はいっぺんで円丈師匠のファンになった。

しかし、その円丈師匠がこんなレコードを出していたことは、まったく知らなかった。
サミー前田氏によるとほとんど売れなかったのだが、
数年前におバカソングを集めたコンピレ
CDに収録されたとのことだった。

「うーむ、これは今年最大の発見かも知れない」とうなり声を上げつつ、
円丈師匠がリッケンバッカーを持ちながら
チャック・ベリーのようなポーズをとっている写真の上に
ドドドーンと『恋のホワン・ホワン』という文字が描かれたレコードジャケットを
サミー前田氏に返した。

そうこうしているうちに場内が暗くなり、エンケンが登場した。
愛用のグレッチを大音響でかき
鳴らしながら、
フォーク、ロック、パンク、ジャズ、演歌・・・あらゆる音楽は平等であり、
そしてそれは聴く人にとっての宗教であるという、
まさにエンケンの純音楽宣言ともいえる『フォロパジャクエン
No.1』をまず演奏した。


ライブは
2部構成になっていて第1部はエンケンのソロ、
そして第
2部が頭脳警察のトシと元子供バンドの湯川トーベンを加えた
エンケンバンドの演奏であった。

1部のエンケンのソロはもちろん、
個人的には
2年ぶりとなるエンケンバンドの演奏も文句なしの大熱演であった。
次から次へと繰り出されるエンケンの歌を全身で感じながら
まさに至福のひとときを過ごした。
会場も多いに盛り上がっていた。
愛娘の八雲ちゃんを連れて開演前に姿を現していた佐野史郎より
遅れて会場に到着したのであろう石川真希さんも、
楽しそうに手拍子を打ちながら全身でリズムをとっていた。
ちょうど僕の向こう正面に石川真希さんがいたのである。

しかし、この日のエンケンはなにかにイラ立っているように思えた。
MCでは「コンサートをやっても誰も儲からないんだよね。
やっぱりレコードが売れないと」とか
「今日来てくれた人のなかには、もう
2度と来てくれない人もいるんだろうね」などと、
およそエンケンらしからぬボヤキも多かったし、
歌の途中で高音部分がかすれてしまうところがいくつかあった。

プロ魂のかたまりのようなエンケンである。
不調である自分自身に対して、
そして自分をとり巻く商業的なことを含めたさまざまな状況に対して
怒っていたように思えたのである。

そんなエンケンの姿を見ながら、僕は自分自身をダブらせた。

今年1年たくさん楽しいことがあったのだが、
仕事面では大きく飛躍というほどにはいかなかった。
なかなか思うようにいかない現状に対して、
イラついたり不安を募らせたりすることも多々あった。
でもやり続けるしかないのである。
この日、エンケンもいっていたが「一生懸命にやるしかない」のである。
ハナシはそれからなのだ。

ライブのラストでエンケンはエンケンバンドについて、
先月来日公演を行ったフーを引き合いに出し、
我々観客を煽るように「トシ、トーベンすごいだろ。フーよりいいだろ」と語っていた。
そのとおりだと思った。
日本には遠藤賢司がいる。このことをもっと誇りに思っていいのではないかと思った。


もしエンケンが海外でライブを演ったとしたら、
数年前のフジロックフェスティバルで来日したニール・ヤングや
パティ・スミスのライブを観て
日本の多くの若者が衝撃を受けたのと同じようなことが起こるのではないかと思う。

来年、エンケンはデビュー40周年を迎える。
この節目の年が、エンケンにとって大きな飛躍の年になることを願いたい。
NHKの紅白歌合戦はもう長いこと観ていないのだが、
もしエンケンが出るというのならハナシは別だ。
いつもライブの最後に唄われる名曲『夢よ叫べ』を、
来年こそはぜひ紅白で唄ってほしいものである。

この日のライブでも『夢よ叫べ』が最後に演奏された。
さっきまでの大音響がウソのような、生ギター
1本による静寂の世界だった。
このときエンケンは珍しく歌詞を変えて唄った。
「本当はね、誰でも哀しくて泣きたい夜だってあるよ」
(作詞:遠藤賢司)という歌詞を
「死にたい夜だってあるよ」と唄ったのである。
僕はこの歌詞の変更に込められたエンケンの心中を思うと、
ちょっぴり複雑な心境になった。

が、最後はエンケンらしく『夢よ叫べ』を切々と唄い上げたあと、
いつものように歌舞伎役者のような大見得を切ってステージをあとにした。
エンケンがステージから去ってもアンコールを求める拍手は鳴り止まなかった。
ひょっとしたら演奏はしないまでも、
トシ
&トーベンと一緒にもう一度ステージに出てきてくれるのではと期待していたのだが、
それは叶わなかった。


今年最後のエンケンのライブの余韻に浸りながら、
僕は帰り支度をはじめた。
そして、隣のサミー前田氏に
「今日は素敵な音楽をたくさんありがとうございました。
とても楽しかったです」と一礼して席を立った。

その後、エンケンのスタッフの方にご挨拶をしていたら
目の前に佐野史郎がいた。
僕はこれはチャンス♪とばかりに声をかけた。
どうしても佐野史郎に伝えたいことがあったからだ。


その伝えたいことというのは、
佐野史郎が
6月にBOWWOWの山本恭司氏と共に原宿で行った
小泉八雲の朗読会のことである。
以前この日記にも書いたが、あれは本当に素晴らしかった。
あのステージを体験することができた僕は実に幸せ者だといまも思っている。

その思いを伝えたかったのだ。

佐野史郎は、そんな僕に対して
「ありがとうございます」といって丁寧に接してくれつつ
「また演りますんで」といってくれた。
また演るのであれば、これはもうぜひ観に行きたい。
来年の楽しみがまた
1つ増えた思いである。

僕も来年はようやく厄年が明ける。
幸いにして大きなケガも病気もせず
3年間にわたる厄年人生を過ごしてくることができた。
来年の節分まで、あともう少しの辛抱である。
なんとかこのまま厄年から逃げ切ってやる。

と、こんなことを書きなぐっていたら今年の1月、
占い好きの友人が僕に「今年は現状維持ぐらいの感覚でいたほうがいいみたい。
そのかわり来年はいい運勢よ」といっていたことを想い出した。
ふだん占いの類いはまったく信じない僕ではあるが、
こういう都合のいいハナシは大歓迎である
()

エンケンがデビュー40周年を迎える2009年が、
今年以上に素晴らしい年になるような予感がする。
僕の予感は当たるのだ。ウッシッシ。

と、またまたこんなことを書きなぐっていたら、
大麻問題で日本相撲協会を解雇された
露鵬と白露山が
「総合格闘技へ
?」というニュースが出ていた。
そういえばこの
2人についてエンケンが
93日に行われた絵本“ボイジャーくん”発売記念ライブで
「タイマーズを結成してプロレスラーになればいいのに」といっていたことを想い出した。

果たして言音一致の純音楽家・エンケンこと遠藤賢司の予言どおりになるか?
来年の楽しみがまた1つ増えた。

2008.12