サム・クック「ワンダフル・ワールド」


先週の土曜日、寝坊をしてしまった。
朝いちばんで神保町へ行き、その足で恵比寿に行く予定だったのだが、
目覚めたら
8時半であった。
もちろん週末恒例の散歩
&ジョギングどころの騒ぎではない。
僕は飛び起きるやいなや、顔を洗い、歯を磨き、コンタクトレンズを入れ、
髪の毛をとかし、大急ぎで着替え、文字通り家を飛び出すように出かけた。

ふだんであれば神保町へなど足どりも軽ろやかに歩いて行ってしまうのだが、
さすがにこの日は春日駅から都営三田線で向かうことにした。
電車はもちろん先頭車両の最前列に乗った。
しかし、残念なことに運転席が見える窓際には先客がいて、
レールを愛でながらの道中というワケにはいかなかった。

この先客・・・別に運転席越しの眺めを楽しむのが目的ではなく、
ただ単にそこに立っていただけという様子であった。
まさに以前、タモリ倶楽部で電車マニアでもある原田芳雄さんがいっていた
「価値のわからない奴」状態。
やはり先頭車両の最前列、運転席が見える窓の前に立ったら
窓越しに車窓からの眺めを楽しむのが粋というか、風流というか、雅というか、
まあいろいろだろうなどと考えていたら、あっという間に神保町の駅に着いた。

相変わらず今日も寒いが土曜日も寒かった。
寒ガリータの僕は裏地にフサフサがついたモコモコの分厚いハーフコートにサングラス、
そして手袋というなんともヘンチクリンな格好で
神保町界隈を三省堂方面に向かって急ぎ足で歩いた。
なんとか遅刻はしないで済みそうだった。

ら、前方に大きな雪だるまを発見した。
どのぐらい大きいかというと、
身長
185センチの僕が手を伸ばしてもアタマのてっぺんに届かない、
それぐらい大きいのである。

すみません・・・僕の身長は170センチでした。お詫びして訂正します。

と、僕の身長はさておき、僕はこんな大きな雪だるまを見たことがなかった。
しかも大雪も降っていないのに、何ゆえ神保町にこんなに巨大な雪だるまが
!!
ふと、見上げると「神保町雪だるま祭り」と書かれた小旗が
あちらこちらに掲げられていた。
「神保町雪だるま祭り」は
1月の後半の週末に行われている冬の恒例行事である。
が、僕は見たことがなかった。

見てしまった以上は素通りできない。
さっそく手袋を取り、
Gパンの後ろポケットからケータイを取り出し、
雪だるまくんを撮影した。
その後、なんとか雪だるまくんとツーショットを撮ろうと思って悪戦苦闘したのだが、
雪だるまくんがあまりに巨大すぎて、
自分で撮影しようとするととても雪だるまくんの全身が入らないのだ。
かといって、道行く人に頼むのも恥ずかしい。
僕は泣く泣く雪だるまくんとのツーショットをあきらめた。

そして、そのまま目的地に向かおうと思ったのだが、僕はふと考えた。
せっかくの機会なので、
ちょっとぐらい雪だるまくんに触ってもいいんじゃないかと思ったのだ。
で、手のひらでペタペタとちょっとだけ触った。
雪だるまくんは、ものすごく冷たかった。
寒がりのくせにこういうことになると、
ついつい童心に返ってしまう来月
42歳の誕生日を迎える僕は、
次に雪だるまくんの足下にあった雪をつかんでみた。
手のひらと指先はみるみるうちに真っ赤になり、
手はかじかむ一方だったが、僕は嬉々としてその一握の雪を素手で持ったまま、
目的地へと足どりも軽やかに歩き出した。

不惑の40にも、いろんな40がいるのである。どうだ、まいったか!?

などと自慢してもしょうがないのだが、
僕はこんなバカな自分がけっこう好きである。

原田芳雄さんもそうだが、素敵な大人のオトコというのは、
どこか少年っぽいところがある。
カッコいい大人のオトコを目指して人生修行を続ける僕からすれば、
この少年っぽさというのは重要なキーワードである。

明日の夜、尊敬してやまない不良オヤジである
ロバート・ハリス兄が出演するトークライブに行ってくるのだが、
ハリス兄もどこか少年っぽいところがある。
今年
60歳にならんとしているのに、
遊び心と感性のみずみずしさはまったく失われていない。
それは男性の僕から見ても、すごく素敵に映る。
きっと女性から見れば、もっと素敵なのだろうなと思う。

先週末、ハリス兄は自らが脚本・演出を手がけた
64(シックスティフォー)”というお芝居を川崎で上演した。
2008年 我々は音楽を使い捨てカメラの様に、ダウンロードしては忘れていく・・・ 1964年 あの頃みんなは音楽を愛し、音楽に愛されていた」をコンセプトに、
懐かしいオールディーズソングをふんだんに使ったコメディタッチのミュージカルである。
もちろん僕も初日に行ってきた。
開演前、ロビーにハリス兄がいたので挨拶をした。
「いやぁハリスさん、楽しみですねぇ」と僕がノーテンキにいったら
「こっちはもうドキドキだよ」とハリス兄は笑った。

残念ながら上演は終わってしまったが、
ネット上でまだ告知を観ることができるので興味のある人はぜひ覗いてほしい。

予告編の動画に使われているBGMはサム・クックの『ワンダフル・ワールド』。
21世紀の今日も色あせない珠玉の名曲である。
かくいう僕もこのお芝居で久々に聴いたのだが、実にいい曲である。

サム・クックは19641211日に射殺された。
もちろん、そのころ僕は生まれていない。
が、サム・クックの音楽は
そんなサム・クックと同じ時代を生きてもいない人間をも魅了している。
本当に素晴らしい音楽というのは、
世代を超えて受け継がれていくものなのだ。

巷では昨年発売された“R35なる、
TVドラマやCMで使われた1990年代前半の曲をまとめた
コンピレーションアルバムがロングセラーを続けているそうだが、
僕はまったく興味がない。
「もう一度、妻を口説こう。」というコンセプトも、
R35」というネーミングおよびターゲティングも気に入らない。
なんか、あの頃は良かったわね、という空気が感じられて仕方がないのである。

だいたいにして、チャゲ&飛鳥の『SAY YES』や
藤井フミヤの『
TRUE LOVE』を熱心に聴いてました、
ドラマも毎週観てましたという女性と僕が趣味が合うはずもないので、
僕が違和感を覚えるのはしょうがないのだが、
それにしてもなんかイヤな空気感である。

やはり、口説きたくなるとしたら
「サム・クックの『ワンダフル・ワールド』って昔から大好きなんですよ」
というセンスをもった女性でしょ、やっぱり。
もちろんビートルズでもドアーズ、ジャックスでもいいけど。
でもツェッペリンはちょっと困るかな。


2008.01