ピーター・ポール&マリー「風に吹かれて」


昨日、前の会社時代から2年間続けてきた仕事が無事に終了した。
この仕事は、僕が前の会社を退社するにあたって、
別のコピーライターが引き継ぐはずだったのだが、
担当デザイナーの強い要望で退社後も引き続き担当させてもらった。

何ゆえこのデザイナーが僕のコピーにこだわったかというと、
表紙の企画がキーとなっていた。
毎月
1回、料理のイメージ写真に合わせてキャッチコピーと
450文字程度のコラム的なボディコピーを掲載するという紙面企画であったのだが
けっこう評判が良く、途中でコピーライターが変わることによって
コピートーンも変わってしまうことをこのデザイナーは恐れ、
僕が退社した後もこの仕事は続けてくれるようにと会社に直談判したのだ。

この仕事は僕も楽しんでやらせてもらった。
最終回となる
12月用の印刷物のテーマはクリスマスであった。
ホテルのシェフによる「
鴨ロースト赤ワインソース添え」なる創作料理の写真に、
クリスマスにちなんだ話題を盛り込むにあたり、
僕の脳裏をかすめたのがロバート・デ・ニーロと
メリル・ストリープが主演した
1984年の映画“恋におちて”だった。

舞台はクリスマスシーズンのニューヨーク。
デ・ニーロ演じる建築技師のフランクと
メリル・ストリープ演じるグラフィックアーティストのモリーは、
ともに配偶者へのプレゼントを買うために書店に立ち寄った。
他にも多くのプレゼントを抱えていた
2人は出口でぶつかり、
買った本を互いに間違えたまま帰路につく。
その数か月後、通勤電車のなかで
2人は偶然再会し、
お互いを意識し合うようになる。

その後、食事をしたり、お茶を飲んだりというデートを重ねるが、
その関係はあくまでプラトニックなものだった。

しかし、ある日、
フランクとモリーはフランクの友人のアパートで関係をもとうとする。
が、その途中でモリーは拒絶。
2人が結ばれることはなかった。

だが、お互いの配偶者には、わかっていた。
誰かほかに好きな人がいるということを。

前々から打診されていたヒューストンへの転勤を決意し、
それを妻に伝えた夜、フランクはついにそのことを妻から問いただされる。
「なにもなくすべて終わった。もう会っていない。何もなかったんだ」というフランクに対し、
妻は「その方がもっと悪いわ」といってフランクを殴り、実家へ帰る。

ひとりヒューストンへと発つ夜、フランクはモリーに電話をし、
ひと目だけでも会いたいと告げる。
一度は拒絶したもののモリーは、フランクに会いに行こうと出かける。
なにかに感づいていた夫が止めるのも聞かずに。
あきらめ切れないフランクが再び電話をかけると、
電話に出たのはモリーの夫だった。
モリーの夫はフランクに対し、
モリーは話したくないといってもう寝てしまつたとウソをつく。

失意のフランクがタクシーに乗り家を出たあと、
モリーは土砂降りのなか車でフランクの家を目指すが、会うことはできなかった。


1
年後、お互い独り身となったフランクとモリーは、
最初に出会った書店で再会する。
しかし、互いに配偶者と別れたことは話さず、別れる。

そして、ラストシーン。
モリーを追いかけて電車に乗ってきたフランクが、車内でモリーを見つける。
そして、フランクに気づくモリー。
2人は電車のなかで抱き合い、キスを交わす。

僕はロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープが大好きで、
この映画も大のフェイバリッドのひと
つだ。

“恋におちて”は不倫を描いたものとくくられがちだが、僕はそうは思わない。
ひと言でいえば、大人の男女のおとぎ話だと思う。
特にこの映画におけるメリル・ストリープの演技は、
性的なものを想起させない透明感のあるもので、
不倫映画というより美しい純愛映画を観たような気分にさせられる。

不倫という世界は、ドラマでも数多く描かれているが、
その代表作として挙げられるのが“金曜日の妻たちへ”であろう。
僕はこの金妻シリーズ、最初のものしかちゃんと観ていない。
古谷一行、竜雷太、泉谷しげる、小川知子、いしだあゆみ、佐藤友美らが出演し、
ピーター・ポール
&マリーの『風に吹かれて』が主題歌だった1983年のドラマである。

このドラマで僕がいまも印象に残っているのが、
夫である古谷一行との関係を告白した、親友で竜雷太の妻・小川知子を、
いしだあゆみがピシャンとぶつシーン。
このいしだあゆみの演技は、僕のなかでいまなお彼女のベストアクトである。


この“金曜日の妻たちへ”が現在、
CSで再放送されていることをつい先日知った。
ドラマはすでに中盤に差しかかっている。
しまった。
こんなことなら、ちゃんと情報をチェックしておけばよかったと思ったが後の祭りである。

でも、途中からでもいい。
もう一度、録画してでも観ようと思う。

“金曜日の妻たちへ”の最終回。
竜雷太との子ども宿し、
晴れて仲が認められた石田えりがはしゃいで揚げ物の揚げ方を佐藤友美に指導し、
佐藤友美がブチ切れるシーンも忘れられない。
佐藤友美と泉谷しげる夫妻には、子どもがいないのだ。
怒ってひとり別の部屋に閉じこもった佐藤友美を泉谷がなぐさめに行く。
その泉谷のやさしさあふれる演技も、金妻史上に残る名演技だったと思う。

ロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープといえば、
僕はどうしても実現したかったというか実現してほしかったことがある。
レイモンド・カーヴァーの“ささやかだけど、役にたつこと”を
この
2人で映画化してほしかったのだ。
しかも
1980年代の2人で。
きっと素晴らしい作品になったと思うけどな。

なんてことを僕はことあるごとに人にいいまくっている。
これは死ぬまでいい続けるつもりである。


2007.11