大槻ケンヂ「オンリー・ユー」


大槻ケンヂくんは、僕と誕生日が
2週間しか違わない同級生だ。
それが関係あるかどうかは、さっぱりわからないが、
ジャックス、江戸川乱歩、寺山修司、中島らも、エンケンなどなど、
大槻ケンヂくんとは趣味の共通点がたくさんある。


1995
年にリリースされた大槻ケンヂくんのアルバム『オンリー・ユー』は、
大槻ケンヂくんがカラオケで歌ってみたい歌をコンセプトにつくられた
カバーアルバムである。


タイトルソングの『オンリー・ユー』は、
ばちかぶりというパンクバンドのナンバーである。
この、ばちかぶりでヴォーカルをつとめていたのが、
俳優の、というより、
NHKプロジェクトX”の
ナレーションでおなじみといったほうが通りがいいであろう
田口トモロヲである。

このばちかぶり、ステージでゲロは吐く、放尿すると好き放題やっていた、
まさにアナーキーでデストロイなバンドであった。
そんなライブスタイルが話題を呼んでいたある日、
次に出演するライブハウスのマスターに、
ゲロ禁止令を出された田口トモロヲは、
そのライブハウスのステージ上で脱糞するという暴挙に出たという。
恐るべし、田口トモロヲである。

このアルバム『オンリー・ユー』には
その田口トモロヲもゲスト参加しており、
同じくばちかぶりの『未青年』という曲のなかで
「ボーイズ・ビー・シド・ヴィシャス」というコーラスをシャウトしていた。
そのぶっ飛んだ声を聴いて、おー田口トモロヲは健在だと思ったものだ。

大槻ケンヂくんのステージは1度だけ見たことがある。
いまは閉鎖されてしまった新宿パワーステーションで行われた
早川義夫さんのライブにゲストで登場したのだ。
大槻ケンヂくんの登場の前、
早川さんは「歌のうまい人だなあと思った」と語っていた。

そして早川さんに紹介され出てきた大槻ケンヂくんは、
筋少時代の衣装で出てきた。
出てくるなり「どこにでも場の雰囲気を読めないヤツというものはいるもので、
今日のこの会場の雰囲気のなか、僕のこの格好はいったいなんなんでしょう」
と自虐的なギャグをかまし、観客の大爆笑を誘った。


そしてジャックスの代表曲『堕天使ロック』と『マリアンヌ』を歌ったのだが、
そのヴォーカルは早川さんのいうとおり実に素晴らしいものだった。


正直いって僕は筋肉少女帯というバンドは、あまり興味がなかった。
ので、大槻ケンヂくん個人にも、ほとんど興味を抱くことがなかった。
僕は、この日を境に大槻ケンヂくんのファンになり、
そして買ったのがアルバム『オンリー・ユー』なのである。

このアルバムにはほかにも、じゃがたら、エンケン、スターリン、
INU、そして左とん平といった錚々たる人たちの曲がカバーされている。
なかでも、左とん平本人もコーラスで参加した
『とん平のヘイ・ユー・ブルース』は圧巻であった。


僕は少年時代、
Fのコードが押さえられず
ロックミュージシャンの道をあきらめたというトホホな野郎なのだが、
もし僕もミュージシャンになれるのなら、
こんな自分の好きな曲ばかりを集めたカバーアルバムをつくってみたい。
収録曲は
12曲だとして、さて誰のどの曲をチョイスしよう。

そんな、まずは絶対にあり得ないことでアタマを悩ますのも、
ぜいたくな遊びなのかもしれない。


2006.12