大滝詠一「ブルー・ヴァレンタインズ・デー」

おっ!今日はバレンタインデーではないか!!
といっても、別に楽しみなことなど何もない。

が、中学生の頃は違った。
バレンタインデーといえば、
実にワクワクドキドキの特別な日であった。

いったいいつから義理チョコなるものが、
飛び交うようになったのだろう?

あんなものは本当に意味がないと思う。
お中元やお歳暮感覚で、
職場の女性陣にチョコレートをもらったところで
うれしくもなんともないのだ。

心のこもっていないもので、
人に感動は与えられないのである。

職場の女性からもらったもので一番うれしかったのは、
メモ書きの手紙である。
いまはもう退職してしまった
経理のミゾグチさんにもらったものだ。

ミゾグチさんと僕は学年が一緒ということもあり、
けっこう仲が良かった。
ので、
2年前に社用で日光に行ったときに、
お土産を買ってきたのだ。
小さなひょうたんにヘンテコな顔が描かれた、
どう見ても“いやげモノ”の類であったが、
とても喜んでくれた。

その日の夕方、僕が打ち合わせを終えて帰ったら、
ミゾグチさんからのメモが
扇状に折りたたまれて僕の机の上に貼ってあった。
書かれていた内容は、ただのお礼文である。
でも、僕はわざわざ手紙を書いて再度お礼をいってくれた、
この心遣いがうれしかったのだ。
その手紙は、いまもとってある。

広告屋の仕事は、
いかに人の心を動かすかを常に考えていなければならない。
それを仕事でやろうと思ったら、
まずは日々の生活のなかから
「どうしたら人は喜ぶだろう」ということを考え、
実践する必要がある。

広告屋に必要な資質があるとすれば、
僕はこれだと思う。
これができない人間に、
大した仕事はできない。

大滝詠一の『ブルー・ヴァレンタインズ・デー』は、
1977年に発表されたアルバム“ナイアガラ・カレンダー”に収録されている
メローなバラードである。
好きな女の子から
チョコレートをもらえなかった男の子の心情を切々と歌っている。

かくいう僕も中学時代、
好きな女の子からチョコレートをもらえずガッカリした経験がある。
友だちから僕は、
その子が僕のことを好きだと聞いていた。
バレンタインデーの朝、
「ひょっとしたら今日、チョコレートと一緒に告白してくれたりなんかして」
なんて甘い考えをもって意気揚々と登校したのに、
下校時はトホホホホとしょんぼりと帰った。

この当時、僕はまだ大滝詠一の存在を知らなかった。
なので、『ブルー・ヴァレンタインズ・デー』も当然知る由もない。
僕はいま、この曲をつくづく知らなくて良かったなと思う。
もし知っていたら、傷心のタカハシ少年は
この曲を聴きながら泣いていたかもしれない。

結局、その子のことは中2の秋まで好きだったのだが、
結局つき合うことはなかった。
何度も何度もつき合うキッカケはあったはずなのに、
恥ずかしさが先にたって告白する一歩が踏み出せなかったのである。


まったくもって情けねえヤツだな
!!と、
僕はその頃の僕にいってやりたい。


2007.02