仲井戸麗市「My R&R」
昨日は朝の8時40分に後楽園駅で、
30代前半の独身女性と待ち合わせをしていた。
といっても、イッヒッヒな関係ではない。
以前、勤めていた会社の後輩である。
先週、この後輩から仕事の依頼があった。
とある専門学校の卒業生のインタビューをして欲しいとのことだった。
「オレを頼ってくるとはかわいいヤツだぜ」とばかり、僕は快諾した。
8日にクライアントと打ち合わせを行い、12日に取材をした。
取材場所は奇しくもかつて僕が、
とある女性を口説き落としスイートルームに宿泊したものの、
お酒を飲み過ぎて僕の「チョロ松くん」がまったく役に立たなかったという、
ほろ苦い想い出のホテル内であった。
無事に取材を終え、原稿を書き上げたので、
取材時にクライアントから預かってきた書類を返すために昨日、
後楽園の駅で待ち合わせをしていたというワケである。
昨日の朝は、一昨日よりは寒さが多少和らいでいた。
空はよく晴れ上がっていて、実に気持ちのいい朝であった。
僕は後輩に書類を渡した後、弾むような足どりで中央大学の前の坂をのぼった。
10時過ぎ、図書館に行って本を借りてきた。
その帰り道の10時半ごろ、
午後から打ち合わせをする約束をしていた相手と電話で話し、
1時に待ち合わることになった。
いったん帰宅し、着替え、僕は自宅を出た。
お昼前のことだった。
コートのポケットに手をつっこみながら春日通りをホテホテと歩き、
後楽園の駅に向かおうとしたとき、
やたらとヘリコプターが飛んでいることに気がついた。
僕は上空を飛んでいるヘリコプターの数から、
尋常ならざる何かが起きたのだと思った。
最初に思ったのは、クーデターが起きたのではないかということであった。
我ながら極端な発想をするオトコである。
伝通院前の交差点に差し掛かったとき、TBSの中継車が見えた。
スタッフらしき人がクルマの外に出て、上空を見上げていた。
中継車がいるということは、まさにこの近くで何かが起きたのだと確信し、
僕はツカツカと中継車へと近づいた。
そして、そのスタッフらしき方に声をかけた。
中大のキャンパス内で教授が刺されたということを、このとき初めて知った。
中大前では放送各局の車が数珠つなぎのように停められていて、
数えきれないぐらいのテレビカメラがキャンパス内に向けられていた。
自称ゴンゾー・ジャーナリストの僕は、さっそく現場から友人にメールをした。
そして、待ち合わせ場所へと急いだ。
しばらくした後、僕が第一報を伝えた友人からメールが届いた。
メールには犯人らしき黒い服の男が逃走した、とあった。
このとき、僕の服装はこうである。
黒いクツ、黒いジーパン、
黒い靴下に黒いパンツとTシャツ(って、何もここまでさらけ出す必要はないか)、
オレンジ色をベースにした派手なプリント柄のシャツに黒いジャケット、
そして黒いハーフコート。
つまり、僕はほとんど黒ずくめの格好をしていたのである。
メールをくれた友人に、
僕も黒ずくめの格好をしているから職質されないように気をつけよう、
ワッハッハなどとノーテンキな返事を送り、僕は再び待ち合わせ場所へと急いだ。
夕方の6時ごろ、中大の前はまだたくさんの人だかりができていた。
人混みを縫うようにしながらその前を通り抜けようとしたそのとき、
スススとスーツ姿の男性が近づいてきた。
そして、こんな声をかけられた。
「富坂警察署の者ですが、今日そこで事件があったのはご存知ですか?」
刑事さんだったのである。
次の瞬間、僕はヤバイと思った。
もちろん僕は犯人ではない。天地神明に誓って潔白だ。
のに、僕はヤバイと思ったのだ。
僕が、黒ずくめの格好をしていたからである。
面倒なことになってはヤダなと思い、僕はシラを切ろうかと思った。
が、逆にヘタにウソをついてやっかいなことになってはいけないと思い、正直に答えた。
「ええ、中大で教授が刺されたんですよね」
「そうなんです。このあたりで不審な人物を見かけなかったでしょうか?」
このとき、僕は犯人がまだ逮捕されていないことを知った。
そして、僕は「さあ、わかりませんね」と目撃情報に関する質問に答えた。
すると刑事さんは「もし不審な人物を見かけたらご協力をお願いします」といって一礼した。
僕も「はい、わかりました。ご苦労さまです」とお辞儀を返した。
僕は思う。
この刑事さんは万が一のことを思って、念のため僕に声をかけてきたのだと。
「そりゃあ、オレみたいなヤツが現場付近を歩いていたら、
とりあえず警察としてはチェックを入れるよな」と妙に納得しながら、帰宅した。
これを書いている時点で、この事件の犯人は逮捕されていない。
犯人がまだ逮捕されていないことで忘れてはいけないのが、
元RCサクセションのCHABOこと仲井戸麗市である。
昨年3月、CHABO愛用のギターや機材を搭載した車が盗難に遭った。
事件から10か月近く経とうとしているのにいまだ犯人は逮捕されておらず、
CHABOのギターも見つかっていない。
今朝そんなことを想いながら、CHABOの『My R&R』という曲を聴いた。
僕がこの曲を知ったのはいまから9年前の1月である。
大好きな早川義夫さんがアルバム
“歌は歌のないところから聴こえてくる”でカバーしたのを聴いたのだ。
何処でもない何処からか やって来たのなら
何処でも何処かへ 帰って行けばいいサ
身体に流れる血には どこの国の色もない
とりたてて何処かアジアの色なども流れてない
覚えた事は自分を知ろうとすること
事のはじまりは例えばそれは俺なら
THE BEATLES…oh yeah
(作詞:仲井戸麗市)
この曲の「覚えた事は自分を知ろうとすること」というフレーズが特に印象に残った。
たしかにロックンロール音楽を聴くということは、
僕自身にとっても自分探しそのものであった。
子どもが1つひとつ言葉を覚え自分の世界をどんどん広げていくように、
ロックンロール音楽を聴くことで僕も少しずつ自分の世界を広げていった。
RCサクセションには、オーティス・レディングやサム&デイヴを教えてもらった。
こんな風に1つのロックンロール音楽から別の音楽を知り、
そして『My R&R』の3番目の歌詞で唄われているように
「覚えた事は自由であろうとすること」を学んだのである。
『My R&R』をはじめて聴いたときは
早川さんとCHABOという組み合わせを意外に思ったのだが、
後に早川さんのホームページに掲載されたRCサクセションについての文章を読み、
なるほどなと思った。
そして、チャボの唄う『My R&R』はYou Tubeで観ることができる。
それにしても、昨日のような凶悪な事件やCHABOが被害に遭った盗難事件が増えると、
ますますいたるところに監視カメラを必要とする世の中になっていく気がする。
もちろん悪さをするつもりなどサラサラないが、
常に誰かに監視されているような人生というのはなんとなく窮屈な気がする。
覚えたことは、自由であろうとすることなのである。