ミック・ジャガー「スローアウェイ」


1988322日、
僕は数日前にこけら落としされたばかりの東京ドームのなかにいた。
ミック・ジャガーの初来日コンサートを観るためである。
ストーンズはこの頃、ほぼ活動停止状態にあり、
ミックのソロ活動に対しては、
キース・リチャーズがえらく立腹しているという情報が伝えられていた。

僕にとってストーンズといえば、
ミックよりキースであった。
観られるものであればミックのソロコンサートよりも
ストーンズのコンサートを観たかった。
しかし、当時の日本ではストーンズが
いつ来日できるかまったくわからず、
とにかくミックだけでも観られるものなら観ておこうと
東京ドームに足を運んだ次第である。

このミック・ジャガーのソロコンサートは
ニッポン放送もひと絡みしていたようで
「ミック・ジャガーです、ニホンでお会いしましょう」
などといった
CMがよく流されていた。

この初来日公演の前年、
ミック・ジャガーは
2枚目のソロアルバム
“プリミティヴ・クール”を発表している。
このアルバムのトップを飾ったのが『スローアウェイ』、
ジョフ・ベックのギターが実に素晴らしい曲だ。

僕はジェフ・ベックはもちろん名前は知っていたものの、
ほとんどちゃんと聴いてこなかった。
なので、ジェフ・ベックといわれても、
どう評価していいのかわからなかったのだ。

しかし、この『スローアウェイ』は違った。
はじめて僕自身の判断で、
ジェフ・ベックってカッコいいなと思ったのだ。

この曲のプロモは、
小さなクラブでの演奏シーンが大半を占め、
もちろんジェフ・ベックも出演している。

小さなステージの上で演奏する
ミック・ジャガー以下、バンドの面々。
そのなかでいちばん存在感があったのは
ミック・ジャガーではなく、ジェフ・ベックであった。

僕はこのビデオクリップが大好きで、たまにYouTubeで観る。
とにかくこの曲は、カッコいい。
僕はミック・ジャガーのソロアルバムは別に欲しいと思わなかったのだが、
この曲だけはどうしても聴きたくて、シングル盤を買った。
そしてミック・ジャガーの初来日公演の前後、しょっちゅう聴いたものだ。

ミック・ジャガーのソロコンサートでは、
ソロの曲ももちろん演奏されたのだが、
後半はほとんどストーンズのヒット曲のオンパレードであった。
キースもチャーリー・ワッツもロン・ウッドもビル・ワイマンもいないが、
やはり生でミック・ジャガーの歌声を聴けたのはうれしかったし、
ロケンロールの歴史の
1ページに立ち会ったという喜びも感じた。

ストーンズの初来日が実現したのは、
このコンサートからちょうど
2年後のことである。

はじめて東京ドームを訪れてから、早19年。
3月というと、なぜか東京ドームが身近に感じられるのは、
やはりはじめての東京ドーム体験が
3月だったことと関係あるのだろうか?

ちなみに僕はヤクルトファンなので、
球春といっても東京ドームは連想しない。
絶対に春の神宮球場を思い起こす。

そーいや、13年前に一度だけ観た原田芳雄さんのライブで
『横浜ホンキートンク・ブルース』を唄っていたとき、
芳雄さんは“
We love music”“We love movie
We love 新宿”などのフレーズと一緒に
I don’t like GIANTS”と唄い僕は拍手喝采を送った。

東京ドームへは去年の夏に都市対抗野球の決勝を見に行ったが、
神宮球場へはもう何年も行っていない。
今年は、ぜひ神宮球場に行ってみよう。

神宮で飲むビールのほうが、ドームで飲むビールより、
なぜか数倍もおいしく感じられるのだ。


2007.03