松任谷由実「デスティニー」


1972年の75日、
ひとりの女性シンガーソングライターがデビューした。
その名は荒井由実。
後のユーミンこと松任谷由実である。

有名な話であるがユーミンのご実家は
八王子にある老舗の呉服屋である。
僕も何度も前を通ったことがある。
ご実家が裕福だったこともあってか、
ユーミンは中学生の頃から
飯倉のイタリアンレストラン「キャンティ」に
毎日のように出入りしていたという。

「キャンティ」は当時、文化人のサロン的な存在で
三島由紀夫や安倍公房、黒澤明、岡本太郎、小澤征爾、
篠山紀信、ロバート・キャパといった錚々たる顔ぶれが常連であった。
ほかには加賀まりこやかまやつひろし、坂本龍一、
村上龍などもよく出入りしていたと伝えられる。

そんななかに、中学生の女の子が出入りしているのである。
早熟というか、度胸がいいというか、なんというか、
その物怖じしない行動には感服させられてしまう。
僕が中学生の頃は、
喫茶店に入るのですら一大イベントであったのだ。

僕がユーミンを知ったのは中学1年生の冬である。
友人がユーミンのカセットテープを入手したので
借りて聴いてみたのである。

僕はユーミンの曲のなかで『デスティニー』がいちばん好きなのだが、
ずっとこの曲はこのとき借りたカセットテープに入っていると思っていた。
しかし後年、調べてみたところ『デスティニー
』が収録されているアルバム
“悲しいほどお天気”が発売されたのは
1979年の12月であった。
このカセットテープのなかには『埠頭を渡る風』も
収録されていたことを記憶している。

『埠頭を渡る風』は
197811月に発表されたアルバム
“流線形’80
に収録されているので、
僕が借りたのはこのアルバムのカセットテープなのかも知れない。

では『デスティニー』はいつどこで聴いていたのか?

僕は好きな音楽に対して記憶力はいいほうだと思う。
滅多に思い違いをすることはないのだが、
この『デスティニー
』に関しては、謎のままなのだ。
記憶どおり中
1の時点で『デスティニー』を聴いていなかったとすれば、
いつどのタイミングでこの曲を知ったのかはっきりしたいところではあるが
もはや手立てはない。

この『デスティニー』・・・たしか佐野史郎もユーミンの曲のなかで
いちばん好きだと書いていたのを読んだ記憶がある。

以前にもチラリと書いたが、
佐野史郎と僕の趣味は似ている。
好きなものに共通点が数多くあるのだ。
だからといって、
ユーミンの歌の趣味まで共通しているとはビックリした。


『デスティニー
』は1988年〜94年にかけてフジテレビ系で放映されていた、
片岡鶴太郎主演のスペシャルドラマ
“季節はずれの海岸物語”の主題歌として使われていたのを
憶えている人も多いと思う。

といっておいてナンだが僕は、
このドラマを一度もちゃんと観たことがない。
エンディングで『デスティニー
』が流れているのを
チラリと幾度か観たことがあるだけだ。

聞いたところによるとこのドラマ、
田代まさしがレギュラー出演していたことから
彼の事件以降、再放送が自粛されているという。
またソフト化もされていないらしい。

田代まさしの一件だけが
再放送やソフト化を阻んでいる理由ではないらしいのだが、
犯罪は犯罪、作品は作品である。
田代まさしが出演しているということが一因で、
お蔵入りにされているとしたら
なんか筋違いなものを感じずにはいられない。
メディアはこんな部分で良識派ぶってもしょうがないだろう。

スポンサーも、そう。
たとえばこの番組の再放送のスポンサーになったら
企業イメージがダウンするとでも思っているのだろうか?

くり返しいうが犯罪は犯罪、作品は作品である。

小賢しいパフォーマンスではなく、
真剣な態度で「すべての犯罪者のスムーズな社会復帰への願いを込めて、
私たちはこの番組の再放送のスポンサーとなりました」
という企業メッセージとともに再放送のスポンサーに名乗りを上げたら、
僕はその企業に対する信頼感は増すような気がするのだが・・・。

良識派ぶって、
臭いものにフタをすればそれでいいってものじゃないと思う。


2007.07