マッドネス「アワ・ハウス」


昨日も朝早くから働いていた。
とある
IT企業のホームページに掲載する代表者インタビューをまとめていたのだ。
そもそもこの仕事は、
別のライターが担当していた仕事である。
しかし、あがってきた原稿があまりにもひどいので、
急遽「なんとかしてくれ」と知り合いから連絡があり、請け負ったのだ。

インタビューものでナニが大変かというとテープ起こしである。
以前、
7時間にわたる取材内容をテープに起こしたときは、
気が狂いそうになった。
が、今回はすでにテープ起こしの原稿が用意されていたので、
あとはその内容をまとめるだけ。
決して簡単な仕事ではないが、午前中には片づけてしまおうと考え、
実際
9時過ぎにはまとめあげた。

ひと仕事片づけ、やれやれとホッしていたらトラブルは起きた。
いま一緒に仕事を進めている代理店の営業担当者から、
先日、事故ったデザイナーとまたしても連絡がつかないという知らせが入ったのである。


このデザイナーからは事前に、
火曜日・水曜日と検査入院のため連絡がつかなくなるという報告を受けていた。
実は火曜日の午前中に、進行中の仕事に対する修正が発生したのだが、
そういう事情で対応できないため
営業担当者に頼んで昨日までスケジュールを延ばしてもらっていたのだ。

仕方のない事情とはいえ
こちら側の都合でクライアントを待たせてしまっていることに加え、
今後のスケジュールを考えると
昨日中に修正したものを絶対提出しなければならない。
のに、肝心のデザイナーがつかまらない。
営業担当者は何としてでも今日中には対応してもらわなければ困ると、
電話口で僕にいった。

それは僕も同感だった。

すぐさま焦って電話をしてみたが、
留守番電話の機械的な声が応答するだけだった。
僕はとりあえず留守番電話に、
すぐに連絡をくれるようメッセージを吹き込んだ。
しかし、待てど暮らせど連絡は来ず、
時間だけが虚しく過ぎていった。

他のデザイナーに依頼するとしても、
元のデータは連絡がつかないデザイナーがもっているので対応のしようがない。
同じものをイチからつくっていったら、
とてもじゃないが今日中に提出することなど無理である。
要するに、今日中になんとかしようと思ったら、
連絡がつかないデザイナーからの連絡を待つしかないのだ。

じりじりとした時間が流れ、僕はだんだん腹が立ってきた。
仮に今日も検査であれば、せめて電話の
1本ぐらいよこすべきだろう。
それがプロの責任というものだ。
腹立たしさにまぎれ、何度も何度も電話をかけた。
しかし、結果は同じであった。

連絡がつかないという第一報をもらってからすでに3時間半以上が経過した午後1時前、
この日何十回めかの電話をこのデザイナーのもとに入れた。
ら、電話がつながった。
案の上、検査が延びてまだ病院だという。
そんなことは知ったこっちゃない。
仕事の現状を話し、すぐに対応するように厳しい口調で告げた。
デザイナーは心から申し訳なさそうに
「病院を途中で抜け出してでも
3時までにはなんとかします」といった。

とりあえず最悪の事態だけは避けられた。
僕は安心感と脱力感で、イスに深々とへたり込んだ。

なんとか仕事の段取りをつけた後、僕は横浜へと向かった。
京急・神奈川駅の近くにある住宅リフォーム会社が、
会社案内をつくりたいといってきたので社長の取材に出かけたのである。

春日駅から都営三田線→浅草線と乗り継いで、
京急・横浜駅へと向かった。
来た電車は今年の
1月、
タモリ倶楽部で原田芳雄さんたちが乗った
1000系車両の快速特急だった。

僕はせっかくなのでということで、
芳雄さんたちと同じように最前列の車両に乗り、
運転席の窓から線路を眺め続けた。

タモリ倶楽部でとり上げられていた数々の見所をしっかりとこの目におさめ、
僕は満足げに横浜駅に降りた。
そして、川崎方面に戻るような感じで、横浜から
1つの目の神奈川駅へと向かった。

取材は和気あいあいとした雰囲気のなか滞りなく終了し、
僕は今朝からさっそく録音していた
MDの内容を起こし、原稿をまとめた。
とりあえずこれで、またひと仕事完了である。

自称ボヘミアンの僕は、
いままでマイホームを欲しいと思ったこともなければ、
今後買いたいという希望もない。
ちょうどいま、我が家の隣で住宅の新築工事が行われている。
わずか60平米の土地に、3階建ての住宅を3戸立てているのだ。

この土地、当初は更地で6千万円強で売りに出されていた。
その土地を別の不動産会社が買って、
いま
3つの建て売り住宅をつくっている。
1戸あたりの価格はもともとの全土地代とほぼ同等の6千万円である。

我が家は文京区のなかでも高台のほうにあるので、
ベランダの日当りはいいし、ベランダからの眺望もよかった。
冬の晴れた日には、新宿の高層ビル群のはるか彼方に富士山が望めた。
このベランダ前に
3階建ての住宅が建てられることによって、
日当りの面でも眺望の面でも影響が出るのは避けられない。
残念ではあるが、仕方がない。

それにしてもビックリしたのは、
家が建てられていくスピードである。
一昨日ぐらいまでは土台しかなかったのが、
あっという間に枠組みができ上がりつつある。
工事の模様をちょっとだけ覗いたら、
それは建築というより
積み木を組み合わせていくような作業であった。
大工さんがノコギリを使ったり、
カンナで削ったりという作業がほとんどない。
こんな風にしてつくられていくものに
6千万なんて絶対に払いたくないなと思った。
もともと払えないけど
()

そういや80年代にマッドネスというグループがあった。
HONDAのシティのCMにも出ていたので憶えている人も多いだろう。
このマッドネスの代表曲が『アワハウス』。
たしかマッドネスの曲をフィーチャーした同名のミュージカルが去年、
日本でも上演されたはずだ。

マッドネスの『アワハウス』では、
「僕らの家は通りの真ん中 僕らの家は大所帯
 いつでもなにかが起こっている」というようなことが唄われていた。


せまくてチンケな家に何千万円も出してローンにしばられながら生きるよりも、
「ストリートが我が家だぜ」といった気概をもって生きていくほうが僕は好きだ。

まあ、好き嫌いの以前にマイホームを買う金なんかない僕ではあるが。
しつこいようだけど
()


2007.10