カイリー・ミノーグ「ラッキー・ラヴ」
日曜日の新聞に、
渡部又兵衛さんの記事が載っていた。
渡部又兵衛さんは、コント集団“ザ・ニュースペーパー”の
創設時からのメンバーである。
記事には又兵衛さんが糖尿病で左足をひざ下から切断して以来、
義足で舞台に立っているとあった。
ザ・ニュースペーパーが結成されたのは1988年。
さる高貴なご一家の家長の病気により歌舞音曲が自粛され、
仕事が激減したキャラバン、ジョージ・ボーイズ、
笑パーティーの3つのコントグループが半ばやけくそで結成したものだ。
僕の知人にザ・ニュースペーパーの関係者がいたことが縁で、
彼らの旗揚げ当時からの活動を見続けてきた。
さらに後には公演ポスターやフライヤーの制作もお手伝いさせていただき、
個人的にも思い入れの深いグループである。
そのグループ名が示すとおり、
彼らのコントはニュースを素材にしたものだ。
ニュースを笑いのフィルターをとおして表現する舞台は、
過激でシニカルで、ニュースの本質がよくわかった。
著名人の支持者も多く、さまざまな人がゲスト出演もしていた。
ここ数年は、彼らの舞台から足が遠ざかっており、
その間メンバーも大きく変わった。
現在では僕が知っているメンバーよりも、
知らないメンバーのほうが多い。
結成当初からの仲間が次々と去っていったなかで、
又兵衛さんはザ・ニュースペーパーの屋台骨を支え続け、
病気と闘いながら、舞台に立ち続けた。
記事には、足の切断手術から4ヵ月で舞台に復帰したとあった。
そして、舞台の袖に引っ込んだとたん、
息絶えるのが理想だという又兵衛さんのコメントが紹介されていた。
その記事を読みながら又兵衛さんの、
プロとしての、凄まじいまでの執念を感じずにはいられなかった。
1988年を代表する曲といえば、
僕のなかではカイリー・ミノーグの『ラッキー・ラブ』である。
別に彼女のファンでもなんでもないのだが、
この曲のキャッチーなメロディラインの虜になってしまったのだ。
以来、この曲はなかなか耳から離れない。
恐るべし、カイリー。
実に侮れない曲である。
シンガーは19年前の曲であろうが、
何年前の曲であろうが、
自分のステージでいつでも歌うことができる。
しかし、ザ・ニュースペーパーの舞台はそうはいかない。
常にいま現在、世の中を騒がしているニュースを題材にコントをつくり、
新鮮なうちに舞台にかけるのだ。
その苦労たるや、並大抵のものではないと容易に想像できる。
それを20年近くも続けるには、
さらに確固たる意志と驚異的な持続力が必要であろう。
又兵衛さんは、それを実行してきたのだ。
又兵衛さんは糖尿病の恐ろしさを多くの人に知ってもらうために、
自らの体験を題材にしたコントもつくったという。
18日には日本糖尿病学会の医師を招いて
トーク&コントのライブを行うそうだ。
又兵衛さんが体験したことは
カイリー・ミノーグの『ラッキー・ラブ』の原題のように
“I should be so lucky”とは、とてもいえないことだと思うが、
義足をつけて舞台に立ち、客席に笑いをふりまく又兵衛さんの
不屈の芸人魂に心から敬意を表したい。