キンモクセイ「七色の風」


僕がこの世でいちばん好きな香りは、金木犀の香りである。
街中に甘く爽やかな金木犀の香りが漂いはじめると、
ふだんは不健康の象徴のような東京の空気も、少しはマシになる。
胸いっぱいに空気を吸い込んで、
思わずラジオ体操のひとつもしたくなるってなもんだ。

しかしながら、季節はまだ春。
金木犀の香りを楽しむまでには、あと半年待たなくてはいけない。

キンモクセイの『七色の風』をはじめて聴いたとき、
声といいナイアガラ風のサウンドといい、
僕はてっきり杉真理が唄っているのだと勘違いした。

キンモクセイは相模原市出身の5人組で、
2001年にメジャーデビュー。
翌年
1月に発売したセカンドシングル『二人のアカボシ』は
初のトップテンヒットとなった。
僕はこの時点でキンモクセイのことは詳しく知らなかったのだが、
明星のインスタントラーメン“チャルメラ”を模したレコジャケを
CD屋さんで見て、
おもしろいバンドだなと思ったことを憶えている。

セカンドシングルでの成功の勢いをそのままに、
2002年の5月にリリースしたのが『七色の風』である。
このジャケットもちょっとした仕掛けがあって、
メンバー
5人の配置が微妙に異なった数パターン用意されていた。

さらに、このシングル
CDを購入したお客さんを無料ライブにご招待という
太っ腹な特典もついていた。
僕もさっそく
1枚購入したことはいうまでもない。

前述のとおりこの『七色の風』
・・・曲調自体はまさにナイアガラの世界なのだが、
本人たちも確信犯だったようで、
プロモ用の
CDジャケットは
大滝詠一の“ア・ロング・バケーション”のジャケットを、
CD購入の特典のステッカーは“ナイアガラ・トライアングルVol.2のジャケットを、
それぞれパロっている。
僕はこういう遊び心が大好きだ。

『七色の風』のプロモーションビデオは、
立川の昭和記念公園で撮影したらしい。
この昭和記念公園は
1977年、
この地にあった米軍基地の全面返還を受け、
昭和天皇の在位
50周年の記念事業の一環として
建設・整備が進められた国営の公園で、
198310月、第一期開園式が昭和天皇のご臨席のもと行われた。

いまはもう昭和記念公園の一部になっているのかも知れないが、
1986年ごろはまだ米軍基地の名残がたくさん残っていた。
僕の先輩が、その基地跡地の警備のアルバイトを始めたこともあり、
僕もちょくちょく遊びに行ったものだ。

そこには武蔵美や多摩美の学生から
日雇い労働者までいろんな人たちが集まっていたのだが、
僕はそのなかで最年少だったので、
みんなから弟のようにかわいがってもらった。
20歳前後の楽しい想い出のひとつである。

昭和記念公園はもうしばらく行っていないが、
これからの季節は実に気持ち良さそうである。
色とりどりの花があり、澄み切った水があり、
空には白い雲と青い空が広がっている。
心地よく缶ビールを飲んでいる僕のまわりを
七色の風が吹き抜ける。

このゴールデンウィークは、
少し自然に触れてみたいなってきた。
人間、そう思うときは、それを求めているときなのだ。
最近、疲れた吐息が多いから、
ここらで人生の深呼吸をしに出かけるとしようかな。


2007.04