キム・カーンズ「ベティ・デイヴィスの瞳」

昨日のハナシの続きになってしまうが、
ホンダという企業は実に
CMソングのセンスがいい。
なかでも一番印象に残っているのが、
1981OAのタクトのCMに使われた
キム・カーンズの『ベティ・デイヴィスの瞳』である。
この曲は全米チャート
9週連続1位を記録し、
グラミー賞の最優秀レコード賞も受賞した。

長いブロンドの髪を無造作にかき分けながら
ハスキーな声で歌うキム・カーンズは、
当時高校
1年生の僕にとってまさに「大人の女性」であった。

この曲、僕はてっきり彼女のオリジナルソングだとばかり思っていたのだが、
そうではないらしい。
聞くところによると、プロデューサーからこの曲を勧められたとき、
彼女は乗り気ではなかったという。
それが自身最大のヒット曲になってしまうのだから、
世の中わからないものだ。

たしか小林旭も『熱き心に』を持ってこられたとき、
「なんでオレがこんな歌を唄わなきゃいけないんだ」
というようなリアクションをしたという話を聞いたことがある。

『ベティ・デイビスの瞳』にしても『熱き心に』にしても、
僕はいっぺんでいい曲だと思ったものだが、
シンガーというのはやはり自分が唄う歌にいろいろとこだわりがあるのだろう。

ところでこの曲で歌われているベティ・デイヴィスとは、
もちろんハリウッド女優のベティ・デイヴィスのことである。

彼女は他の美人女優が演じたがらないような
汚れ役や悪女役にも果敢に挑戦し、演技派として名をはせた。
そんな彼女の役柄のイメージからか
『ベティ・デイヴィスの瞳』の歌の主人公も男を誘っては弄び、
ポイっと捨てるような蠱惑的な女性である。

この曲がヒットしたとき、当のベティ・デイヴィス本人は
たいそう喜び、キム・カーンズはもとより
作詞者・作曲者にまでお礼の手紙を書いたという。

キム・カーンズへの手紙にはこう書かれていたそうだ。
「うちの孫があなたの大ファンなの。
孫に『おばあちゃんは昔、美人だったんだね』って聞かれて、うれしかったわ」

手紙の送り主は「ハリウッドのファーストレディ」と呼ばれ、
アカデミー主演女優賞はもちろん、
ベネチア映画祭、カンヌ映画祭でも主演女優賞を受賞した大女優である。

しかし、彼女の文面から、そんな気どりはまったく感じられない。

僕はこの手紙のエピソードを聞いて、
ベティ・デイヴィスがとても好きになった。
きっと、ひとりの女性として
いくつになっても素敵なひとだったんだろうなと思う。


2007.03