KAT「ナゴリユキ」


「ワイルドサイドを歩け」を座右の銘とし、
「死ぬまで
18歳。オレは永遠の不良だ!!」などと常日頃からほざき、
まわりの人間から呆れられている僕ではあるが、
実は環境問題に対しては非常に関心が高い。

だからといって市民運動に加わるとか、
NPOの一員になるとかということはしていない。
僕はあくまで自分のスタンスで、
環境問題について取り組んでいきたいと考えているからだ。

一昨日・昨日と東京国際フォーラムで
「グリーン電力は、みんなの未来を創るチカラです。」というキャッチコピーの
GREEN POWER CAMPAIGN”が開催された。
ので、僕もさっそく昨日行ってきた。
行こうと思った要因は
3つある。
1つは、脳科学者の茂木健一郎氏の基調講演を聞きたかったこと。
2つ目はパネルディスカッションに冒険家の石川直樹氏が出ること。
そして同じくパネルディスカッションに
環境エネルギー研究所所長の飯田哲也氏が出ることが
3つ目の要因であった。

茂木氏についてはNHKのテレビ番組の司会をはじめ
多方面で活躍中の「旬の人」なだけに詳しい説明は必要ないと思うが、
石川氏と飯田氏については個人的な想い出をからめて少しだけ説明しておきたいと思う。


石川直樹氏を知ったのは
2000年のことだった。
世界各国
7か国から集まった若者たちと共に北極から南極までを9か月かけて
スキー、自転車、カヤック、徒歩といった人力的手段だけで踏破する
POLE TO POLE」に参加していることを知り、
すごい若者がいるものだと感銘を受けたものだ。
その翌年にはチョモランマに登頂、七大陸最高峰登頂を
23歳にして達成した。

その石川氏の足跡の前には、
いくら僕が「ワイルドサイドを歩け」などとほざいてもかなわない。
石川氏は
1977年生まれなので、僕より10歳以上下の世代になるが、
自称というか名ばかりボヘミアンの僕は密かに石川氏を尊敬してきたし、
いまもそのリスペクトの気持ちに変わりはない。
なので、どうしても直に石川氏の話を聞きたかったのだ。

飯田哲也氏を知ったのも2000年のことである。
当時僕は中村敦夫さんが主宰していた勉強会に参加していた。
毎月第
1月曜日に麹町の会場を借りて勉強会を行っていたのだが、
そこに講師としておいでくださったのだ。
ここで僕はヨーロッパにおける
自然エネルギー発電の取り組みについてはじめて知った。
それは地球と人類がこれから共存していくための示唆に満ちあふれた、
まさに新しい時代の到来を予感させるようなワクワクするようなお話であった。

さて昨日、このお三方から聞いた話をいちいち書き連ねていたら、
とてつもない長い論文になってしまうので詳細は割愛させていただくが、
なかでも興味深かった話を
23記しておきたいと思う。

茂木氏の講演は「多様性」というキーワードをもとに展開された。
そのなかで印象的だったのは自閉症についてのお話である。
自閉症は病気や障害という認識ではなく、
1つの個性と認識しているという内容であった。
自閉症の人は他者とのコミュニケーションがうまくいかない特徴があるが、
その反面では見た景色をまるで写真のように絵に描けるなど人一倍優れた能力を発揮する。
要するに短所もあるが、
ものすごい長所をもった個性的な人という捉え方をしているというのである。
そして、そうした個々の「多様な」個性を認めながら、
共通点を見つけ楽しむことが
21世紀の楽しみ方なのではないか
ということをお話しされていた。

別に自閉症に限らず、世の中にはさまざまな病気や障害を持っている人がいる。
そうした人たちに対して、僕は積極的に近づいていきたい。
そして僕が想像もつかないような、痛みや苦しみを教えてほしい。
そうしているうちに共通点はきっと見つかるだろう。
生涯大切にできる友情が育まれるかもしれない。
僕はそんな風にしてたくさんの友人をつくり、
たくさんのことを友人たちから教わりたい。
ろくに知りもしないで排他的に偏見をもったり差別しようとしたりしている人間より、
よほど楽しく豊かな人生を送れそうである。
茂木氏のお話を聞きながら、僕はあらためてそんなことを考えた。

個性ということでいえば、茂木氏はさらに子育てについて
「子育てとは親子で子どもの宝
(=個性)さがしをすることだ」
ということをおっしゃられていた。
僕も経験があるが、親をはじめとする大人たちによって夢をつぶされたり、
自分を否定されたりするのは、とても悲しく辛いことである。
茂木氏のような考え方の大人がたくさん増えてくれるといいなと思った。

一方、石川氏は地球温暖化について、
北極圏で生活している人々の暮らしを例に挙げて話していた。
すでにニュースなどで報じられているように、
地球温暖化の影響は北極圏に暮らす人々の生活にも深刻な影響を与えている。
パネルディスカッションにおいて
石川氏は自身が北極圏で撮影してきた写真をいくつか見せてくれたのだが、
そのなかの
1枚は温暖化による影響で海岸線が削られ、
家屋が大きく傾いているものだった。
石川氏は「いまこの瞬間にも、北極圏で生活している人たちがいることを忘れないでほしい」
ということを繰り返し語っていた。

たしかに僕らは豊かな文明生活を享受している。
その恩恵のもとに日々の暮らしを成り立たせている。
しかしその一方で、その文明生活のおかげで暮らしが脅かされている、
しかも我々が想像もしえないような過酷な環境下で生活している人々の日常が脅かされているのだ。

このことを僕らはもっと真剣に考える必要があると思う。
とはいえ、特別なことをする必要はないと思う。
1人ひとりが自分のスタンスでできることをすればいいのだ。
それは、そんなに難しいことではないと思う。

石川氏が出会った北極圏に生活している人たちは、
いまも犬ぞりを移動手段としている。
スノーモービルをどうして使わないのですか
?という石川氏の質問に、
その人たちはこう答えたという。

「だって壊れたらおしまいじゃないか」

僕は、その言葉に強い衝撃を受けた。
なにか僕がいままで考えもしなかった、
すごく大切な価値観を教えてもらったような気がしたのだ。
まさに「多様性」のなかに「共通点」を見つけた思いだった。

パネルディスカッション終了後、別会場で18時からミニライブが開催された。
KATといきものがかりがゲストだった。
KATは日本人の母とニュージランド人の父を持つシンカーソングライターで、
昨年発表の
1stミニアルバムに収録された『ナゴリユキ』は、
かのイルカの『なごり雪』を英語と日本語をチャンポンし、
レゲエ調にアレンジした斬新なもので、大いに話題を集めた。

もちろん昨日のミニライブでも演奏された。
生ギターとリズムボックスだけによる、シンブルだけど素晴らしい演奏であった。

そんなこんなで実に実りある時間を過ごし、
さまざまなものを心のなかにお土産として抱えながら、
僕は東京国際フォーラムをあとにし帰路についた。

水道橋の駅からドーム前を通って帰ろうとしたら、
前方に見覚えのある巨漢の男性がいた。
ナント
! 小林亜星先生であった!!

小林先生というと、
どうしてもテレビドラマ史上に残る傑作“寺内貫太郎一家”のイメージが強いので、
子どもの頃からずっと「大きな人」という印象があったのだが、
僕のすぐ脇を通り過ぎた小林先生は、
意外にも僕とさほど身長が変わらなかった。

2008.02