ジョー山中「ララバイ・オブ・ユー」


先日、俳優の鈴木ヒロミツさんが亡くなった。
そのお通夜とご葬儀が、
わが家の近くの伝通院で行われていた。
聞けば鈴木ヒロミツさんも、
文京区にお住まいだったという。

鈴木ヒロミツさんといえば、
ドラマ“夜明けの刑事”を思い浮かべる人が多いと思うが、
僕は杉山登志さんの代表作のひとつ、
モービル石油の
CMを想い出す。

僕は鈴木ヒロミツさんの死に関するニュースをテレビでまったく観ていないのだが、
生前の鈴木ヒロミツさんを語るなら、
ぜひこの
CMについてもとり上げてほしかったなと思う。

このCMは加藤和彦氏が出演した
富士ゼロックスの「モーレツからビューティフルへ」と並ぶ、
70年代初頭の一大傑作である。
「のんびり行こうよ俺たちは」という
BGMに乗って
ガス欠になった車を押す鈴木ヒロミツさんの映像は、
まさに時代に対するメッセージ性にあふれていたと思う。

もうひとつ、鈴木ヒロミツさんが出演したもので特に印象に残っているのが、
映画“戦国自衛隊”である。
千葉真一率いる自衛隊の舞台が戦国時代にタイムスリップするという
半村良さんの原作を映画化したもので、
去年だか一昨年だか、反町隆史主演のテレビ版が放映されたので
知っているという人も多いのではと思う。

この映画のなかで鈴木ヒロミツさんは、
タイムスリップしていなければ恋人と駆け落ちをするはずだった、
にしきのあきら演ずる親友の菊池を部隊から逃がしてあげる
心やさしき自衛隊員を好演した。

“戦国自衛隊”を製作したのは角川春樹氏である。
角川氏については、いろいろと毀誉褒貶があると思うが、
少なくとも僕は日本映画界にいち時代を築いた人だと思う。

角川映画はスケールもクオリティも高かった。
第1作目の犬神家の一族はもちろんのこと
続く人間の証明も野生の証明も、野獣死すべしや蘇る金狼も、
もちろん“戦国自衛隊”もいまだに大好きな映画である。

映画“戦国自衛隊”のラスト・・・ヘリも戦車も失い、
廃寺にたどり着いた千葉真一たちを、
盟友であった夏八木勲演じる長尾景虎の軍勢が囲む。
そして長尾軍によって自衛隊員たちは全員討たれ、
廃寺とともに灰となる。

このラストシーンで流れたのが、
ジョー山中の『ララバイ・オブ・ユー』である。

映画好きの人たちからしたら僕が観た映画の総数などしれたものだが、
このラストシーンは僕のなかでは確実に十指に入る。
そのぐらい印象深いシーンであり、印象深い曲なのだ。

この曲を聴きたくてジョー山中のアルバムを買ったのだが、
音楽だけを聴くよりも、やはりこの映画のラストシーンとともに聴くのがいちばんである。
ドアーズの『ジ・エンド』のときも書いたが、
素晴らしい音楽と映像が融合したときの迫力は、観るものを圧倒する。

この映画をはじめて観たのは中学2年生の冬休みであった。
同級生+サッカー部の後輩で観に行ったのだ。
以来、この映画はビデオでも何度も観た。
何度観ても飽きることなどない。
機会があれば、また観てみたい。

“戦国自衛隊”の原作者である半村良さんといえばもともとはコピーライターで、
僕が以前勤めていた会社にいらっしゃったというお話を聞いたことがある。
真偽のほどはわからないが、もうそうだとしたらなんかうれしい。

杉山登志さんと半村良さん。
この
2人を結ぶキーパーソンとなるのが、
僕のなかでは鈴木ヒロミツさんということになる。

伝通院は新撰組を愛する僕にとって聖地のひとつである。
そこでご葬儀をなされ、なおかつご近所さんでもあった
鈴木ヒロミツさんへはなにかしらの縁を感じずにはいられない。

お墓が伝通院にあるのかどうかはわからないが、
今週末にでも伝通院に行って
鈴木ヒロミツさんを偲んでこようと思う。


2007.03