陣内大蔵「心の扉」


昨夜は首都圏を直撃した台風9号の影響で、
我が家あたりも風雨がすごかった。
真夜中、窓越しに聞こえてくる荒々しい風の音を聞きながら、
僕は陣内大蔵の『心の扉』を想い出していた。

 ああ 窓をたたく風の音が増している

 まるで誰かにせかされているようさ

  (作詞・陣内大蔵/山中耕作)

この曲は1992年、
ナニかのドラマの主題歌となっていたと記憶しているのだが、
僕はそのドラマを観ていなかったので詳しいことは知らない。
僕が『心の扉』をちゃんと聴いたのは、この年の
9月、
サイパンに向かう飛行機のなかでの機内放送であった。
ちょっとマイケル・ジャクソンの
『ブラック・オア・ホワイト』のパクリが入っているが、
なかなかいい曲だと思った。
そして、日本に帰って来てから、
いまでは懐かしい
8センチのシングルCDを買った。

サイパンへは仕事で行った。
サイパンにある某ホテルの撮影のためにである。
このとき僕は前の年から禁煙していた。
禁煙のきっかけは実に簡単なものだった。
お酒をしこたま飲んだ次の朝、
お酒とタバコの吸い過ぎで口のなかが気持ち悪く、
どうにもこうにもタバコを吸う気になれなかった。
夜になってもタバコを吸いたいと思えず、
次の日もなんとなく吸いたくなかった。
こうして僕は、そのまま禁煙生活へと突入した。

が、禁煙効果は思わぬところに出て来てしまった。
10キロぐらい太ってしまい、
それまではいていた
Gパンがことごとくピチピチ、
あるいはもうはけないという事態に陥ってしまったのだ。

ギターの
Fコードは押さえられなくても、
スピリットはロックンローラーの僕である。
僕のなかでロックンローラーたるものは、
太っちゃいけないというルールがあったのだ。

このままではイカン。
村上龍のような丸顔のほっちゃり体型になってしまっては
もうすべてオシマイである。
僕は人生の再起をかけて、果敢にダイエットに挑むことにした。

まず、晩ゴハンをいっさい食べなくした。
そして毎日帰宅してから
10キロぐらい走り、
少しずつタバコをまた吸い始めた。
仕事を終えて
10キロ走るのはつらくもなんともなかったが、
夜の空腹にはまいった。
お腹が空きすぎて眠れないのである。
僕は何度も寝返りを打ちながら、
朝になったらハムエッグを食べよう。
しかもダブルで…などと食べることばかりよく考えたものだ。

そうこうしているうちに体重は画期的に落ち、
1か月ぐらいで元の体重に戻すことに成功した。
1か月で10キロ減。
まるでロバート・デ・ニーロの役づくりのようではないか
!!


こうして僕の足掛け
2年にわたる禁煙生活は終わり、
現在に至っている。
体重も体形もさほど変わってはいない。

ハナシがちょっとそれてしまったが
その禁煙生活のなかで、唯一タバコを吸ったのが
このサイパンに行ったときである。
なぜ、タバコを吸おうと思ったのか
?
サイパンに行けば、ドラッグが手に入ると思ったからである。
そのために日本を発つ前に
タバコとライターを用意してサイパンへと向かった次第だ。

仕事とはいえサイパンである。
絶対楽しいことが待っているに違いない。
僕は心を小躍りさせながら、飛行機に乗っていた。

そこへ流れてきたのが前述の『心の扉』である。
そもそもがいい曲ではあるのだが、
こんなにワクワクした気分で聴いたのだ。
悪い印象を持つはずがない。
サイパンに着いたら「心の扉」も「知覚の扉」も全開だ、
なんて考えつつ着陸のときを心待ちにしていた。

仕事が片づくと僕はそそくさとタクシーに乗って
あちこちへと出かけた。
そしてその道中、
タクシーの運転手にドラッグは手に入らないかと聞いた。

しかし、結果はダメだった。
運転手たちがいうには、
そんなことに関わったら自分が危なくなるというのだ。
うーん、困った。
僕は成田空港で買った
100円ライターで、
現地のスーパーで買った両切りのラッキーストライクに火をつけた。

僕の計画では、
このラッキーストライクのなかに
別の気持ちいい乾燥草が含まれるはずだったのに。
でもダメなものは仕方がない。
サイパン最後の夜、
僕はタクシーの窓から入ってくる南国の風を受けながら
ラッキーストライクの煙を深く吸い込んだ。

フィルターなしのラッキーストライクの煙は、
とてもキツかった。
そして
帰国してスグ、
僕はブタクサの影響により花粉症になった。
世の中にはいろんな草があるものである。

2007.09