池田聡「星のない夜に」


大島渚監督の“御法度”が公開されていた当時、
もうひとつの新撰組に関する映画が渋谷で単館ロードショーされていた。

市川崑監督の“新選組”である。

これは黒鉄ヒロシさんの漫画を原作に、
その絵を
20センチぐらいに切り抜いたものをパネルに貼り、
そのパネル自体を動かしながら撮影するという、
かなり画期的な手法をつかった作品である。

黒鉄ヒロシさんの原作も素晴らしかったが、
この崑監督の映画も素晴らしかった。
中村敦夫さんが近藤さんの声を担当されていたこともあり、
期待して観に行ったのだが、
期待を裏切らないどころか、期待以上の作品だった。

新撰組の結成から崩壊までが、
90分間にコンパクトにまとめられていて、
僕のような新撰組を愛する者はもちろんのこと、
新撰組についてよく知らない人が観ても楽しめるような気がした。

この映画が公開された2000年当時、
歳さんの故郷・日野市ではそれほど新撰組に対して
町ぐるみで取り組んでいたとはいえない。
僕はこれをぜひ日野市で上映できないものかと考えた。
日野市の多くの人に、この映画を通して
「おらが町のヒーロー土方歳三と、新撰組」について知ってほしいと思ったのである。


さっそくダメもとで映画の配給会社と交渉したところ、
なんとか自主上映会ができそうな目途が立った。
そして会場に日野市民会館を押さえ、
自分たちでポスターを貼り、チケットを売り歩いた。

すべてが手づくりの上映会であった。

さらに僕はダメもとで、原作の黒鉄ヒロシさんと市川崑監督に
上映当日、会場で読み上げたいのでメッセージを頂戴できないという手紙を書いた。

さっそくお2人からメッセージが届いた。
黒鉄ヒロシさんは、毛筆に巻紙のという畏れ多いお手紙を送ってくれた。
崑監督も本文こそワープロ打ちではあるが署名入りで、
しかもわざわざ宛名も直筆のお手紙をくれた。

僕はお
2人に対して、心から感謝した。
名もなきいち市民が主催する上映会である。
無視しようと思えば、いくらでもできる。
にもかかわらず、きちんとこちらからの勝手なお願いに応えてくれたのだ。

僕はあらためて、志の大切さをこの経験を通じて学んだ。

上映会当日、僕も客席の片隅からこの映画を観た。

映画の終盤、西軍に捕らえられた近藤さんが斬首の寸前、
歳さんを想い語りかけるシーンにおいて
「でもなあ歳さん、拙者の、いやおいらの人生、勝ち越しだったと思うよ。
楽しかったなあ、おもしろい夢だったなあ」という敦夫さんのセリフまわしに、
僕は再び目頭を熱くしたことを憶えている。

映画は、沖田総司の死によって唐突に終わる。
まさにスパッという感じで、エンドマークがスクリーンに映し出されるのだ。
その終わり方が、また実に新撰組らしいなと思いつつ、
エンディングロールを観たことを憶えている。

そしてこの映画の主題歌、小西康陽が作曲し、
池田聡が唄った『星のない夜に』に耳を傾けた。

今日、620日は歳さんの新暦での命日である。

志に生き、35歳の若さで箱館の地に散った歳さんの人生もまた、
勝ち越しだったと思う。


2007.06