異邦人「嗚呼!花の応援団

今日は浅草の神谷バーに行ってくる。
電気ブランなる、得体の知れないお酒で知られる
老舗のレストランバーである。

レストランバーといってもおしゃれな雰囲気ではない。
かなりレトロな雰囲気である。
ここのオススメはハーフ&ハーフである。
神谷バーのハーフ&ハーフは、
大のビール好きの僕を虜にするほど、とにかく美味しい。
あとオススメは、メンチカツだ。
揚げたて肉厚のメンチカツを肴に、
キンキンに冷えたハーフ&ハーフをグビッグビッと飲む。
この至福体験をみんなで分かち合おうというのである。

メンバーは先月、
上野での僕の厄祓いに集まった面々プラスアルファである。


あのときは、本当にひどかった。
僕が大嫌いな一気飲みをし、
2人がつぶれた。
つぶれた
Tを送っていった友人Uちゃんが、
なぜか僕のバッグを持っていった。
そのバッグにはサイフも入っていたので、
僕は突如として一文無しとなった。

もう一人、つぶれた
Sは、
どういうワケか友人
Uちゃんの携帯を持ち帰っていた。
僕は友人
Uちゃんに連絡を取ろうとしたが、
電話はつながらなかった。
それもそうである。
泥酔した
Sはタクシーのなかで前後不覚になっていたという。
とても携帯電話などに気づく余裕はなかったろう。
さらに
Sは、Mくんの学ランまで持って帰っていた。

なぜに、学ラン?

実はMくんは去年
ベンチャー企業のマッチングなどを行っている会社に入社したばかりのルーキーなのだが、
学生時代は応援団長をやっていたのだ。
彼がまだ大学を卒業する前、僕は内定者として
Mくんを紹介された。
ひと通り挨拶を交わし、打ち合わせを終え、
Mくんたちを見送ろうとしたそのとき、
「タカハシさん、ちょっと見てもらいたいものがあるんです」
Mくんの先輩社員が僕にいった。

見てもらいたいものとは?それはいったい何だ?と思い、
次のアクションを待っていたら、
Mくんはおもむろにまだ真新しいスーツのボタンを外し、
「これなんですが」といいつつスーツの裏地を見せた。
そこには「ベンチャー企業の応援団」という文字と、
自社の社名が美しく刺繍されていた。

僕はこういうセンスのヤツが大好きである。
以来、僕は彼をかわいがり、一緒に飲みに出かけたりもした。

そんな関係から、僕の厄祓いの宴会のことを話したところ、
「ぜひ参加させてくださいよ。
僕がエールを送ってタカハシさんの厄を祓いますから」といってくれた。

そんなことから当日、
Mくんはわざわざ大学時代の想い出のたくさんつまった
学ラン持参でやって来てくれたのだ。
しかも彼は僕の厄祓いエールのために、
ひとりカラオケボックスで練習までしてきてくれたらしい。

にもかかわらず、
TSがグタグタに酔っ払ってしまったために、
Mくんによる厄祓いエールができなかったのだ。
挙げ句の果てに、
Sが学ランを勝手に持って帰ってしまったものだから
大騒ぎである。

僕のバッグはたぶん友人
Uちゃんが持っているとわかっていたので
心配してなかったのだが、
Mくんの学ランはさっぱり見当がつかない。
しかも無くしたら大変だ。
ひょっとしたらお店に忘れてきたのかと思い、
僕は閉店したお店のシャッターを無理やり開けてもらい店内を探してみた。
しかし、学ランはなかった。
当たり前である。
この時点で
Sのバカヤローが持って帰っていたのだ。

翌日の朝9時。まず友人Uちゃんから電話が入った。
案の上、僕のバッグは彼女
が持っていた。
安心したのもつかの間、
携帯電話を無くしたことを告げられた。
これまた当たり前であるが、
この時点で僕は
Sのバカヤロー
彼女の携帯を持っていることを知らないのである。

日曜日の早朝から、
僕は
Mくんの学ランと友人Uちゃんの携帯電話という
2つの探し物の心配をしなければならなくなった。

とても、ゆったりと休日を過ごしている場合ではなくなったのだ。

そのあと、Sから電話があった。
昨日の失態について詫びたあと、
Sはすっとぼけた声で「誰のか知らないんですけど
携帯電話がコートに入ってたんですよ」といった。
色を聞いたら友人
Uちゃんのに間違いなかった。

さらに
Sは「どういうわけか、
学ランまで持って帰ってきてしまいました」と続けた。

今日中にウチまで持って来〜い
!!と一喝したのち、
前夜わが家に泊まった
Mくんに
無事に学ランが見つかったことを告げ、
友人
Uちゃんにも携帯電話が発見されたことを告げた。

Sは午後2時ぐらいにわが家にやって来た。
玄関のドアを開けたら土下座していた。
僕は思いつくだけの罵詈雑言を浴びせながら
()Sをわが家に招き入れた。

学ランはMくんがすでに帰ったあとなので僕が預かることにし、
友人
Uちゃんの携帯を届けるのと
僕のバッグの回収のため彼女の最寄り駅へと向かった。
この時点ですでに
4時近く。
朝からずっとバタバタしっぱなしの日曜日であった。

それからずっとMくんの学ランはわが家に置いてあった。
今日は約
1ヵ月半ぶりに、Mくんのもとへ大切な学ランを返せる。
そして返ってきた学ランを着用した
Mくんに、
今日こそは厄祓いのエールを送ってもらうのだ。
今日の集まりは、それが主旨なのである。
決して宴会ではない。
電気ブランの一気飲みなんてもってのほかなのだ。

Mくんの会社のシンポジウムに招かれたとき、
「今後私たちの会社に期待するは何ですか?」というアンケートに僕は
Mくんの成長」と書いた。
半分ギャグ・半分期待を込めての回答だった。
しかし
Mくんはそれを真面目にとらえ、
僕の書いたアンケート用紙のコピーを
自分の机の前後左右に貼ってあるという。

そして、めげそうになるとそのアンケート用紙を見て、
イカンイカンと自分を励ますという。
実にかわいい愛すべきヤツである。

応援団といえばやはり、
どおくまん原作のマンガ“嗚呼!花の応援団”である。
僕が小学生のころ映画化もされ、
しばらくはシリーズで続いた。
そして異邦人というグループが『嗚呼!花の応援団』という
マンガと同名のレコードを出したのは、
僕が小学5
年生の秋だったと思う。

たしかこのレコードを僕は
学芸会が終わったあとレコード屋さんに買いに行った。
なんでそんなことを憶えているかというと、
この日は朝からこのレコードを買おうと心に決めていたからである。

“嗚呼!花の応援団”は、
団長の青田赤道を中心とするドタバタコメディマンガである。
今日の厄祓いは、そんなドタバタにならないようにしてほしい。
そのためにも絶対一気飲みはさせない。

だいたい一気飲みなんてものは
酒の味も飲み方も知らないガキのやることなのだ。


2007.03