本城裕二「HANG OUT」


先週の金曜日、自宅前のバス停でバスを待っていたら、
前に勤めていた会社の社長と会った。
社長のご自宅は板橋にあり、
我が家の前の春日通りを通って御茶ノ水まで車で通っている。
僕がバス停に着いたのは
9:20ごろ。
ひょっとしたら社長が通ったりしてと思っていたら、ホントに来た。

僕が気づくと同時に社長も気づいたようで、
車のなかから笑顔で手を振っていた。
僕も満面の笑みで手を振り返した。
朝から手を振り合っている
30後半男と41歳厄年男。
なかなか気持ち悪い光景である。
僕の隣でバスを待っていたうら若き女性は、
ギョッとした表情を浮かべ、僕と社長を交互に見ていた。

朝からバスに乗ってどこに向かおうとしていたかというと、
本所にある某大手印刷会社である。
とあるカタログが入稿間近なので
最終チェックを手伝ってほしいというオファーを受け、
先週はほとんどその印刷会社にカンづめ状態になって、
原稿の確認作業を行っていた。

のだが、この仕事、とにかく段取りが悪すぎて
「なんでいまごろ、このタイミングでそんなことをやってるの
?
ということの連続であった。
もっと前の時点で確認しておかなければいけないことを未確認にしたまま時間だけが過ぎ、
入稿間際の段階になって混乱をきわめていたのだ。

僕はその段取りの悪さに、半ば呆れ、ムカつきながら、
ホントにアタマ悪いなコイツらと思った。

このカタログは1,200ページにも達する超大作である。
ずっと以前からプロジェクトチームをつくり制作を進めていたのだが、
全体を把握している人間が誰もいなかった。
なので、最終段階になって「あのページはどうなっている
?
「このページがまだ確認できていない」というのがボロボロ出ていた。

他人が進めていた仕事に脇からごちゃごちゃ口を出すのは失礼なのだが、
こういうボリュームのある仕事を円滑に進めるために最も大切なのは進行管理だと思う。
クリエイティブチェックももちろん疎かにしてはならないのだが、
ディレクターが最も気を配らなければならないのは、
常にいまどういう状況になっているのかという現状把握だと思う。

それが、まったくなっていなかった。
混乱する現場のなかで僕ならこう進めるのにと思いながら、
一方で僕が本城裕二だったら「こんな仕事やってられっかよ
!! ハッ」と
捨て台詞を残してとっとと帰るのにと思った。

本城裕二とは19934月〜6月にCX系で放映された
ドラマ“チャンス
!”の主人公である。
演じたのは三上博史。
人気絶頂のなか、突如すべての活動を停止し、
単身ニューヨークにわたった本城が
2年後帰国したとき、
もはや本城は忘れ去られたスターとなっていた。
その忘れ去られた元スターのマネージャーを西田ひかるが演じた。

ニューヨークにわたる前から現場でスタッフを殴ったり、
平気で現場をすっぽかしたりとしたい放題していた本城に対し
恨みを抱いている芸能関係者も多く、
加えていまや忘れ去られた元スター。
まともな仕事などあるはずがなく、
新撰組を描いたドラマでの一介の浪人役や
CMのゴキブリ役、
のど自慢大会の審査員などの仕事をとってきたマネージャー役の西田ひかるに対し、
「なんでオレがこんなことやらなきゃならねえんだよ」と
仕事のたびに食ってかかっていた。

寺山修司の映画“草迷宮”でデビューした三上博史は、
以前から好きな俳優であった。
なので、僕は“チャンス
!”を毎週ビデオに録って楽しく観ていた。

この“チャンス!”の中で本城裕二が唄っていた『HANG OUT!』と『夢 With You』は、
そのまま本城裕二の名前で
CD化された。
テレビ朝日系のミュージック・ステーションに本城裕二こと三上博史が出演し、
HANG OUT!』を唄ったときのことは忘れられない。
バックバンドには、坊主頭に
Tバックのレザーパンツをはいた男がいた。
まさに寺山修司の劇団「天井桟敷」さながらの世界であったのだ。
このとき一緒に出演していた泉谷しげるは、
本城の歌が終わるやいなや「気持ち悪いぞ〜」とヤジを飛ばしていた。
僕は泉谷のナイスなヤジに大笑いした。

ドラマ“チャンス!”の最終回は、
本城が
2年ぶりにリリースした『夢 With You』が1位を獲得し、
復活コンサートも大成功という大団円で終わった。
と思ったら、最後のシーンで、刑事に扮した本城がスタッフを殴り、
「こんなドラマやってられっかよ」といって現場を足早に去って行こうとする本城を
西田ひかるが「いけませんよ、本城さん」と諌めている様子が流された。

そしてスタッフたちに対し本城が、
「おいオマエら、小さくまとまんなよ」と
このドラマにおいて毎回本城がいっていた台詞を捨て台詞にドラマは終わった。


「小さくまとまんなよ」というのは、いい言葉である。

先週、精神的にすごく負荷のかかる仕事をしてきた僕にとって、
この本城の言葉は元気を与えてくれる。

 

2007.11