ホリーズ「バス・ストップ」
一昨日、とり上げたアニマルズと同時期に
大活躍していたイギリスのバンドに
『バス・ストップ』のヒットで知られるホリーズと、
そしてゾンビーズがいる。
このゾンビーズの代表曲といえば、
やはり『テル・ハー・ノー』であろう。
この曲、あの山下達郎も、
世界でいちばん好きなシングル盤と以前ラジオでいっていた。
「もし、あの娘がオマエに『もっとこっちに来て』といっても、
もし、あの娘の魔力でオマエを誘惑しても」という歌詞に続いて
“tell her no,no,no,no,no,no,no,no,no,no,no,no,no,
no,no,no,no,no・・・”とNoが延々と続く。
「彼女にいってやれ、ダメ、ダメ、ダメ、ダメ・・・って」という世界である。
そしてこう続く。
「オレを傷つけるなよ。あの娘の愛はオレのもんだからな」
自分のガールフレンドを友人にとられることに慄く少年の歌である。
この曲、演奏時間はわずかに2分7秒。
曲を聴いている間、カップラーメンもでき上がらない短さである。
60年代半ばあたりまでは、
このように3分未満の曲が本当に多かった。
ビートルズの『オール・マイ・ラヴィング』もたしか
2分6秒ぐらいだったと思う。
この短さが実は絶妙で、
リスナー心理としては「いい曲だけど、短い。
もの足りないからもう1回聴きたい」となる。
そして何度も何度も聴いているうちに、
歌詞とメロディラインがすり込まれていくのだ。
きっと山下達郎も、
レコード盤がすり切れるほどこの曲を聴きこんだことだろう。
いまはデジタルの時代なので簡単にオートリピートができるが、
昔のアナログプレーヤーは手動であった。
曲が終わったら、レコード針がついているアームを戻し、
そしてまた最初からかけ直す。
レコードとのスキンシップがあったのだ。
コンパクトディスクなるものが登場したのは、
僕が高校2年生のときだったと思う。
最初にディスク化されたのは大滝詠一の『ア・ロング・ヴァケーション』と
ビリー・ジョエルの『ニューヨーク52番街』だったと記憶している。
僕がCDプレーヤーを買ったのは、
もちろんそれからはるかずっと後のことである。
発売当時はまだCDプレーヤー自体が高価だったということもあるが、
どうも僕はCD自体があまり好きになれなかったのだ。
別に保守的なワケではないのだが、
なんか慣れ親しんだレコードと比べて、
物としての質感が違っていたのが大きな理由だ。
まずはサイズの問題がある。
直径12センチと手のひらサイズのCDに対し、
LPレコードは直径30センチである。
存在感が違うのだ。
ジャケットのアートワークも、
アナログ盤のころのほうがすぐれたジャケットが多かったように思う。
CDが誕生した1980年代以降、
いろんな分野で技術は急速に進化したかもしれない。
ところでヒトはどうだろう?
なんてコンセプトのCMがかつてあった。
湖畔でサルがウォークマンを聴きながら、
うっとりした表情を浮かべているCMだ。
いまから20年前の1987年、
仲畑貴志さんによってつくられたCMで、
コピーは「音が進化した 人はどうですか」である。
このCMも、映像制作技術が進化した今日なら
CGや合成でそれとなくつくれてしまうだろう。
なんてったってCMの世界においては、
シマウマとライオンが涙を流して抱き合う時代なのだ。
しかし、このCMは本物の猿の耳にウォークマンのイヤホンをつけ、
猿がウォークマンを手にしているところを撮影した。
表情もすべて自然のものである。
だからこそ、このCMは多くの人の心を打ったのだと思う。
デジタルにはない温もりを感じる名作CMであった。
なんでもかんでも昔がいいという懐古趣味はキライだが、
ときには故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る、
温故知新は大切だと思う。
でも本当に最近つくづく思うのだが、
人類は本当に進化しているのだろうか?