ハート「ゼアズ・ザ・ガール」

僕は一度だけ、登山というものをしたことがある。
19888月のことだ。
当時、仕事で付き合いのあったとある社長が大の登山好きで、
僕も誘われてしまったのだ。

はっきりいって僕は、
大自然よりもネオンきらめく盛り場を好む男である。
登山なんか、まったく興味がなかった。
にもかかわらず、その社長の登山話につき合っているとき、
「いやあ、僕もいっぺん体験したいものですね」といってしまったのだ。
余計なことはいうもんじゃない。
僕は身をもってそれを実感した。
それからすぐ、その社長は僕に登山用の本格的なナップザックを買ってくれた。
これで僕の登山初体験は確定的なものとなった。

半ばイヤイヤながらの登山初体験ではあったが、
雲海をはじめて見たときはさすがに感動した。
はるか彼方から登りくるご来光を見たときも、感激した。
これを目にしただけでも、
はるばる白馬くんだりまでやってきた価値はあったと納得して下山した。


その登山旅行の行き帰りの車中でかかっていたのが
ハートの“バッド・アニマルズ”というアルバムである。
正直いって僕は、登山と同様に
ハートというグループにはなんの興味もなかった。
しかし、このアルバムの
3曲目に入っている曲はいいなと思った。
東京に戻ってから調べたら、
その曲は『ゼアズ・ザ・ガール』という曲であることがわかり、
僕はシングル盤を買った。
1988年夏の想い出の1曲である。

この登山に行かなければ、
ひょっとしたらこの曲も好きになっていなかったかもしれない。
そう考えると、ひょんなことから登山にいって、
ひょんなことで、ひょんな曲を好きになる
・・・そんな運命のちょっとした“ひょん”で、
出会ったり出会わなかったりするんだなとつくづく思わされる。


僕を登山に誘ってくれた社長は僕より
3歳上なのだが、
1980年代初頭にあった学生企業ブームのなかで大学在学中に起業し、
そのまま中退。
その後、バブルの全盛から崩壊という激動の
90年代を生き抜き、
21世紀の今日もちゃんと会社を存続させている。
その過程においては片腕としていた部長と決別したり、
自ら入社させた実弟と袂をわかったりもしたという話を風の噂に聞いた。


僕もこの社長とは、もう
10年以上会っていない。
「さよならだけが人生さ」といったのは寺山修司と井伏鱒二だが、
ここ
10年間だけでも本当にいろんな人たちと連絡をとらなくなった。

でも、その一方で、出会った人たちだっていっぱいいる。
たいていはひょんなことが縁で出会った人たちだ。
僕は基本的に人間好きなので、出会いというのは実に楽しい。


 人生が終わると遊びも終わってしまう

 しかし遊びが終わっても人生は終わらない

 遊びは何べんでも終わることができるから

 何べんでもやり直しができる

 出会いと別れのくり返し・・・

 そこが遊びのいいところなんだね


これは寺山修司が出演した
JRACMコピーである。
出会いと別れのくり返し
・・・そこが人生そのもののいいところなのかもしれない。


来年はたくさんの“ひょん”があって、
楽しい出会いがいっぱいあるといいなと願う。
そのためにも、来年はちょっと新しいフィールドの趣味や
遊びにチャレンジしてみるのもいいかもしれない。

登山とか
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2006.12