早川義夫「この世でいちばんキレイなもの」

コピーライターという職業柄、
よく人から「どうしたらうまく文章が書けるんですか」と聞かれる。
その問いに対して僕は「伝えたい人と伝えたいことがあれば、
才能は関係なしにいい文章はかけると思う」と答えている。


最近でこそ“書きまくる
40歳”を旗印に、
日々雑文を書きまくっている僕ではあるが、
ここ数年間は、仕事以外でほとんど文章を書いたことがなかった。

コピーライターは仕事で好きな文章を書けると思っている人が多いのだが、
実際はそうではない。
商行為である以上、自分の意思に反したことを書かなければならなかったり、
クライアントのわがままの前に妥協を強いられたりなどは珍しいことではない。


僕はコピーライターとは、
クライアントという名の旦那衆から
「次はこういう芸を見せてくれ」といわれたら「ヘイ、承知」といって
旦那衆がお望みの芸を披露する芸人だと思っている。

その芸に対して、クライアントは金を払ってくれるのだ。
僕個人の趣味や価値観などはどうでもいいのである。


それだけに自分の書きたいことを以前はよく書いて、
自分のなかでバランスを保っていたものだ。

何も書かなかったこの数年間、
僕は決して伝えたいことがなく、
伝えたい人もいなかったわけではない。
何かを書こう、書かなければ思っていながら、
いたずらに時が流れていっただけなのだ。

日本のロックバンドのオリジン、
ジャックスのリーダーだった早川義夫さんが
23年ぶりに音楽シーンにカムバックしてきたとき、
早川さんは「
23年間、歌ってなかったのではなく、
実は心のなかで歌っていたのだといわれたい」というようなことを語っていた。

いま、僕も同じような心境である。
実は心のなかで書いていたのだ。
自分自身がそう思えるように、
そしてその思いが一人でも多くの人に伝わるように、
1つひとつ言葉を丁寧に紡いでいきたい。

仕事も含め、僕が創作するにおいて心がけているのは
「素直になろう」ということである。
文意が伝わりやすいようにするための戦略は練るが、
こうしたらウケるだろうといった小ざかしい計算はしない。
ウソはバレるのだ。

早川さんもカムバックに際し
45歳の人間がこんなことを歌ったらカッコ悪いとか、
恥ずかしいとかと思うのではなく、カッコ悪くていいんだ、
18歳や20歳の気持ちで歌っていいんだ」といった趣旨のことを語っていたと思う。


1994
年、早川さんが25年ぶりに出したアルバムのタイトルソング
『この世で一番キレイなもの』は、
次のようなフレーズでエンディングを迎える。
「いい人はいいね 素直でいいね
 キレイと思う 心がキレイなのさ」(作詞・早川義夫)

素直がいちばん。その先には、きっといいことが待っている。


2006.12