はっぴいえんど「風をあつめて」


今日は代休を取った。
代休を取るのは一昨年の
12月ぶりである。
僕が勤める会社は、
代休も有給も翌年度に持ち越しできない。
その年度中に消化しないといけないのだが、
そんなことは事実上、不可能である。

僕が勤務している会社は
9月決算なのだが、
昨年の
10月からの代休を退職までに消化しようと思ったら、
6月末から退社日の713日までずっと休んでいられる計算となる。
しかし、これはあくまで計算上のことでしかない。

僕が早朝から休日出勤をしていることを知っている経理のフジサワさんは、
「会社が好きなんですね」とよく僕をからかうのだが、
僕が好きなのは会社ではなく仕事である。
きれいごとをいうようだが、
満足のいく仕事をしようと思えば、早朝出社も休日出勤も苦ではない。

そんな僕が何ゆえ代休をとったかといえば、
今宵は大切な用事があるからである。
その用事とは?
エンケンこと遠藤賢司の還暦祝いライブ、
題して「遠藤賢司還暦記念リサイタル」が
渋谷
AX19:00より行われるのである。

僕が勤務している会社はいちおう18
:45が定時である。
これでは、いくら定時きっかりに会社を出たとしても間に合わない。
夕方
6時ぐらいに早退するという手も考えたのだが、
会社にいればいつ不測の事態が起きるかわかったものではない。
なので、安全策をとって代休をとったという次第である。

今回のエンケンのライブは、いつものライブとはかなり違う。
バックを勤めるのが細野晴臣
(B)、林立夫(Dr)
そして鈴木茂
(G)というメンバーなのである。
細野晴臣と鈴木茂は、日本のロックバンドの草分けである
“はっぴいえんど”のメンバーだった。
そして“はっぴいえんど”解散後に細野晴臣と鈴木茂が結成した
“ティン・パン・アレー”でドラムを叩いていたのが林立夫である。

この3人とエンケンは昔からの音楽仲間だったこともあって、
今回この夢のような顔ぶれが実現した。
細野晴臣も今年めでたく還暦を迎える。
まさにエンケンの還暦を祝う記念ライブにふさわしい面々といえよう。

“ぱっぴいえんど”は細野晴臣、鈴木茂に加え、
大滝詠一、松本隆の
4人編成のバンドであった。
いずれもビッグネーム揃いである。

しかし、鈴木茂は他の
3人に比べ、影が薄い。
スーパーバンド“はっぴいえんど”のリードギタリストであったにもかかわらず、
評価が低いように感じてならない。
ギターの弦を指で弾きつまむ独特のピッキング奏法は、
まさに鈴木茂にしか出せない音である。
他のミュージシャンが真似ようとしても、
そう簡単にはいかないのだ。
なのに、ミュージシャンとしての評価が低い。
低すぎる。

まるでビートルズにおけるジョージ・ハリソンである。
ジョージ・ハリソンを愛してやまない僕は、
ずっと鈴木茂は気になる存在であった。
しかし、そのライブを体験する機会は
41歳になる今日までなかったのである。

エンケンのライブというだけで楽しみなのだが、
今回はプラス鈴木茂である。細野晴臣である。林立夫である。
実に楽しみでしょうがない。
仕事は大事ではあるけれども、もはや仕事どころの騒ぎではないのだ。

数々の名曲で知られる“はっぴいえんど”だが、
そのなかでもやはり『風をあつめて』をよく聴いた。
松本隆の文学的な詞に細野晴臣が曲をつけ、
細野晴臣自身が唄った名曲である。
これまでにも何度か
CMやテレビ番組のテーマソングに採用されている。

数年前、朝早くに仕事で大阪・松下電器の工場へと向かっているとき、
電車の窓から東の空が見えた。
慣れない電車のなかで昇りゆく太陽を眺めながら、
見知らぬ街の見知らぬ工場へと向かう僕の頭のなかに浮かんだ曲が、
この『風をあつめて』であった。

 とても素敵な昧爽(あさあけ)どきを

 通り抜けてたら伽藍(がらん)とした

 防波堤ごしに緋色(ひいいろ)の帆を掲げた都市が

停泊してるのが見えたんです

それでぼくも風をあつめて 風をあつめて

蒼空を翔けたいんです 蒼空を

  (作詞・松本隆)

京都もいいし、神戸もいい。
大阪だっていい街だと思う。
でも僕はやはり東京がいちばん好きだなと僕はこのとき思った。

細野晴臣、林立夫、鈴木茂。
この面々で演奏するエンケンの代表曲
『夜汽車のブルース』は果たしてどんなものか?
一生の想い出に残るような名演奏を期待している。


2007.06