白竜「誰のためでもない」


1980年の今日、
韓国・光州市で民主化を求める活動家と
それを支持する学生や市民が韓国軍と衝突し、
多数の死傷者を出した。
いわゆる光州事件が発生した日である。


この光州事件について唄った歌が収録されていたことから、
デビューアルバム“光州City”が発禁処分となってしまったのが白竜である。

白竜は在日韓国人の2世で、
1979年にシングル『アリランの唄/シンパラム』でデビュー。
発売禁止となった“光州City”は1981年に自主制作で発売された。

この“光州City”の発売はメディアでもかなりとり上げられ、
僕もその一連のニュースのなかで白竜というアーティストを知った。

恥ずかしい話ではあるが、
僕は高校に入るまで、差別問題というのが
この日本に存在しているのを知らなかった。
部落という言葉は村落の同義語ぐらいの認識でしかなかったし、
在日朝鮮人や在日韓国人はたとえば
ハワイ在住の日系3世と同じようなものだと思っていた。

そんな僕に差別問題について教えてくれたのが、
高校の担任だったキムラ先生である。
キムラ先生は高1と高3のときに担任していただいた。
中学時代の先生の大半がイヤなヤツばかりだったせいで、
僕は最初キムラ先生に対しても敵対視していた。
ホームルームでも反抗的な態度をとっていた。
そんな僕に対し、キムラ先生は熱心にいろいろと話しかけてくれた。
そして僕の教師に対する偏見を一掃してくれた。

キムラ先生に最後にお会いしたのは、
いまからもう15年ぐらい前になる。
それは高校時代の同級生の結婚式でのことで、
キムラ先生は僕を見るなり手を差し出してきた。
そして僕の手を力強く握ってくれた。
先生と握手しながら、僕は少しだけ大人になった気がした。

僕が高校3年生だった1983年の夏に公開された
内田裕也さん主演の“十階のモスキート”のエンディングソング
『誰のためでもない』を唄っていたのが白竜である。
「誰のためでもない 国のためでもない
 
親のためでもない 自分のために生きるのさ」と唄うこの曲は
大人になったいまも大好きな曲で、
ある意味、僕の人生を方向づけた珠玉の名曲のひとつである。

2007.05