ゴダイゴ「銀河鉄道999」


一昨日は、何度かこの日記にも登場している
後輩デザイナーと新宿へ飲みに行ってきた。
以前、僕がよく通っていた
輸入ビール専門バーに連れて行ってくださいというので連れて行ったのだ。


「ラバッツ」という大好きなカナダビールを飲みながら、
彼女の近況を聞いた。
ら、元同級生の男の子と付き合い出したはいいけれど、
今ひとつ自分の気持ちが盛り上がらないという。
恋に悩める乙女なのだ。
別に嫌いじゃないけど、
大好きぃ〜っ♪というような感情が湧いてこないという。
週末にデートするのも疲れるというのだ。

「なんでよ!?」と僕は大好きなラバッツを飲みながら、
彼女の気持ちを単刀直入に聞いた。

「たとえばデートするにしても、
私は新橋とか有楽町のガード下に行ってみたいんです。
ああいう所のほうが大好きだし、落ち着くんです。
でも、彼はレストランとかに行っちゃうんですよ」

なるほどなと思った。
要するにその彼氏は、無理をしているのである。
デートで女性をレストランに連れて行けば喜んでくれると思い込んでいるのであろう。
まさにマニュアルどおりの恋愛パターンだなと思った。
だから、いまひとつ彼女の心に響かないのである。

これは広告づくりにも通じることだが、
相手が何を欲しているのかを無視して、
いくらいいでしょ、いいでしょといってもやっても効果はない。
その人がなにを望んで、どうして欲しいのかというところに訴えかけていかなければ
その思いは通じず、ただの自己満足や徒労に終わってしまう。

そういうのは、やはり哀しい。

自慢じゃないが、僕は一度もデートで高級レストランになんか行ったことはない。
ただでさえ、グルメなどとは縁遠い世界で生きている人間である。
味に詳しくもないのに見栄を張って高級レストランで食事するよりも、
新宿三丁目の居酒屋“呑者家”で肉豆腐を食べながら生ビールを飲んでいたほうが、
よっぽど自分らしく楽しめる。
その楽しんでいる姿を見れば、相手だってきっと楽しんでくれるはずだ。
逆に「アタシ、こんな店イヤ」なんて女の子と付き合ったところで、
結局はうまくいきっこないと思う。

何事も自分らしく振る舞えばいいのだ。

その夜、僕は後学のために後輩デザイナーを“呑者家”へと連れて行ってあげた。
相変わらず雑然とした雰囲気の“呑者家”の店内を見回しながら
「これこれ、こういう雰囲気ですよ」と彼女は喜んでいた。

「じゃあ今度さ、こんな感じの居酒屋に行きたいって彼氏にいってみ。
彼だって、そういってもらったほうが救われるかもしれないよ」とアドバイスを送った。
「そうですね、一回いってみます」と彼女は笑顔で、
わさび風味の野沢菜を食べながら生ビールをゴクリと飲んだ。

その夜、帰宅し、お風呂から上がってから
録画していた
NHKの“SONGS”という番組を観た。
この日はゴダイゴが出るので、録画して出かけたのである。

僕がゴダイゴを知ったのは中学1年生のとき。
NTVのドラマ“西遊記”においてであった。
この番組で使われた『モンキーマジック』と『ガンダーラ』はともに大ヒットとなり、
ゴダイゴは一躍人気バンドとなった。

バークリー音楽院に留学経験をもつミッキー吉野(Key)を中心に結成されたゴダイゴは、
東京外語大学に在学中だったタケカワユキヒデ
(Vo)
ギターシンセサイザーを日本ではじめて使用したといわれる浅野孝巳
(G)
そしてドラムにトミー・スナイダー、ベースにスティーブ・フォックスという編成で、
当時の日本のミュージックシーンでは珍しかった
国際色豊かでアカデミックな臭いのするバンドであった。

僕は当時、熱心なゴダイゴファンというほどではなかったが、
彼らが奏でる音楽は好きであった。
数あるゴダイゴのヒット曲のなかで、
いちばん好きなのが『銀河鉄道
999』である。
もちろん“
SONGS”でも、この曲を演奏していた。
聴いているうちについつい血が騒いでしまい、
飲んで帰ってきたというのにまたビールを飲み出し、
何度も『銀河鉄道
999』の演奏部分を観てしまった。

昨日の朝は、アタマが痛かった。

昔はどんなに飲んでも翌日アタマが痛くなるなんてことはなかったのだが、
最近はホントにダメである。
ちょっと飲み過ぎるとアタマは痛いし、カラダは重い。
そんな体調に加え、
昨日は朝から冷たい雨がしとしとと降っていたので出かけたくなかったのだが、
11時から勝どきで新しい仕事の打ち合わせがあったので、
雨のなかホテホテと駅に向かって歩いていた。

ふと、車道に目をやったら、
見覚えのあるクルマが信号待ちをしていた。
僕はそのクルマに向かって手を振った。
前の会社の社長だった。
社長も僕に気がついたようで窓を開けてくれた。

「いってらっしゃい」と僕は社長に向かって大声で叫んだ。
社長は笑顔で「タカハシさんもがんばって」と言葉を返してきた。

ほんの数秒の再会だったが、
僕はなんだかとても清々しい気持ちになった。
こういう人間関係は気持ちがいい。
社長と社員という形では袂を分かったが、
別に人間として憎んでもいなければ恨んでもいない。
僕が退社する
10日ほど前、社長と2人きりで飲みに行った。
そのとき、これからもずっと年に何回かは一緒に飲める関係でいましょうと約束した。
来週の火曜日、僕らはその
2度目の約束を果たす。

打ち合わせも無事に済み、僕はその足で近所の眼科に向かった。
しばらく前からコンタクトをしていると目に痛みを感じるようになっていたので、
診てもらいに行ったのである。
診察してもらったところ、乾燥により肌がカサカサになるように
僕の瞳の表面が荒れているとのことだった。

「まあ、目薬をしばらく続ければじきに治るわよ」と、
アネゴ肌で気っ風のいいいつもの口調で先生はいった。
そして「念のために、涙の量を検査しておきましょうか」といわれ、
僕はいったん診察室から出て、看護婦さんによって目のふちに糸状のものを入れられた。
全然痛くはなかった。
僕の涙を吸い込んだ糸状のものを看護婦さんがもって診察室に入って行ったら
「ねえ、タカハシさん
! 痛くなかった!?」といって、
先生があわてて僕のところに飛んできた。

「いえ、全然」と涼しい顔の僕に対し、
先生は「不思議だわねぇ」といいながら例の糸状のものに目をやった。
いったい何が不思議なんだ
?
もしや目の具合が予想以上に悪いのでは・・・一瞬、そんな心配がアタマをよぎった。


「ドライアイの人はたいてい数ミリぐらいしか涙が出ないのに、
あなたは
5センチぐらい出てるでしょ。
普通の人でもこんなに出る人は珍しいわよ」といって、僕にその糸状のものを見せた。

んなこといわれても困る。
出るものは出るのである。
だからといって、僕までが「どうしてなんですかね」といってしまっては、
ハナシにオチがつかなくなってしまう。

こういうときは機転を利かして笑い飛ばすしかない。
僕はすっとぼけた顔で「涙もろいんですかね
?」といい放ち、
病院中の爆笑を誘った。

なにも
病院に行ってまで、笑いをとる必要はないのに。
・・・などと思いつつも、僕はそんな自分自身に対してニヤニヤしながら帰宅した。


2007.12