郷ひろみ・樹木希林「林檎殺人事件」


今日は麹町へ打ち合わせに行ってきた。
長く続いた打ち合わせを終えたのは午後
4時前。
打ち合わせ中、ずっとタバコを吸っていなかったので
どこかタバコが吸えるところはないかなとキョロキョロしながら
半蔵門方面へと歩いていたら、
TOKYO FMの前まで出てしまった。

目の前には皇居のお堀が見える。
僕は引き寄せられるように、信号を渡りお堀端へと出た。
そして、そのまま桜田門方面に向かって歩き出した。

暑いことは暑かったが、
ジャケットを着ていても一昨日ほどの暑さではない。
僕はそのまま東京駅まで歩き続けた。

ジャケットは羽織っているもののGパンに水玉模様のシャツ、
おまけにサングラス姿だ。
平日の午後、そんな姿でお堀端をホテホテ歩いているヤツはいない。
職質されなくて良かった。

今日かけていたサングラスは、白山眼鏡店のものである。
かのジョン・ノレンが愛用していたサングラスも白山眼鏡店のもので、
型名をメイフェアといった。
僕はこのメイフェアももっている。
が、なにぶん1980年のころのサングラスなので、
デザイン的にいまかけて歩くのはちょっと恥ずかしい。
似たようなデザインイメージで“ナウい”サングラスはないかなと、
何度か上野の白山眼鏡店に行ってみたのだが、
僕が望んでいる感じのものはなかった。


ある日、なんかの用事で津田沼へ出かけた。
津田沼へは何年ぶりかで行った。
たしか津田沼のイトーヨーカ堂だったと思うが、
そのなかに白山眼鏡店があった。
そこに、今日かけていたサングラスがあったのだ。
フレームの感じといい、レンズの色といい、
僕が探し求めていたメイフェアに限りなく近い。
すぐに買ってもよかったのだが、
この日はこのあとも用事があったので
荷物になるのを嫌い後日にすることにした。

このころ、前の会社の同僚が
千葉県は鴨川にある病院に入院していた。
千葉へはよほどのことがないと行かない。
津田沼もしかりだ。
そこで僕は、同僚のお見舞いに行った帰りに
津田沼に寄ってサングラスを買うことに決めた。

お見舞いへは東京駅からバスで鴨川まで行った。
2時間ぐらいかかった。
そして同僚を見舞い、今度は電車に乗った。
特急で君津まで行き、乗り換えて津田沼に行こうと考えたのだ。
車窓から見える景色は、実にのどかであった。
が、あまりにのどか過ぎて僕は不覚にも眠ってしまった。

気がついたときは君津の駅を発車していた。
次は京葉線の海浜幕張まで止まらない。
なんてこったと思ったが、動き出した特急は逆戻りしない。
僕は覚悟を決め、海浜幕張で京葉線に乗り換え西船橋へと出、
西船橋から総武線に乗って津田沼へたどり着いた。

余計な時間を費やしてしまったが、
目指すサングラスはちゃんとそこにあった。
僕はホクホク顔で総武線に乗り、水道橋に帰ってきた。

時は金なり、というが
たまにはこんなムダな時間を過ごすのも大切だと思う。
今日もまっすぐ麹町から後楽園へと帰れば
20分もかからない。
それなのに、わざわざ麹町から東京駅まで歩き、
東京駅から水道橋へと帰ってきたのだ。
バカといえばバカ、アホといえばアホであるが
何かに急き立てられているような日々のなか、
時にはこんなぜいたくな時間の使い方をするのも悪くないなと思った。

東京駅のホームで電車を待っていたら、
野球帽をかぶった男の子を連れたおばあさんに後ろから声をかけられた。
「新宿へ行くのは、この電車でいいのでしょうか
?」というおばあさんに僕は
サングラスをかけたまま満面の笑みを浮かべ
(!?)「ええ、大丈夫ですよ」と答えた。

きっと、おばあさんはお孫さんを連れて東京に遊びに来たのだろう。
旅行バッグのなかから紙を取り出し、何かを確認していた。
そして、おばあさんはその紙を大事そうにバッグのなかにしまうと
「座れるといいね」と野球帽をかぶった男の子に話しかけた。

僕は男の子の背中に手をかけ、僕の前に並ばせた。
おばあさんは「ありがとうございます」と何度も頭を下げた。
男の子も照れくさそうに、何度もペコリとおじぎをした。
電車がやってきておばあさんと男の子が座れたのを確認し、
僕は奥のドアの前に立った。
どうせ御茶ノ水で乗り換えるのだ。
座る必要などない。

僕は、ちょっとだけいいことをしたような気持ちになり、
中央線から見える西側の空をサングラス越しに見ていた。

ジョン・レノンといえば、
今年のジョン・レノンスーパーライブには、
なんとあの樹木希林さんが出演するという。
まさか夫の内田裕也さんとデュエット
!!!!なんてことはあるまいが、
実に楽しみである。

樹木希林さんといえば郷ひろみとデュエットした
『林檎殺人事件』というヒット曲がある。
林檎といえば、アップルである。
しゃれで希林さんがジョン・レノンスーパーライブのステージで
『林檎殺人事件』を唄う…なんてことは絶対にあり得ないわね。


2007.08