藤田まこと「月が笑ってらぁ」


一昨日に続き去る229日、
原田芳雄さんの「
17th×4 Birthday Live」でのこと。

開演前にトイレ前の喫煙スペースででタバコを吸っていたところ、
1人の男性が僕の隣にやってきた。
どう見てもカタギのサラリーマンではないオーラを発している、
ちょいと長身の男性であった。

僕はこういう人間が発するオーラには敏感である。
しかも芳雄さんのライブに足を運ぶぐらいの男性だ。
きっと一筋縄ではいかない個性的なヤツなんだろうなどと考えながら、
その男性を見ていた。

次の瞬間、僕は腰を抜かしそうなぐらいビックリした。
なんと、その男性はキセルを取り出したのである。
そして手慣れた手つきでそのキセルに煙草を詰め、火をつけた。

タバコというのは、個性を主張する重要なアイテムだと僕は考えている。
僕は
20年以上ラッキーストライクを吸っているのだが、
以前はちょっとでも個性を出そうと
ソフトパックのロングサイズのものを吸っていた。
が、数年前に発売中止となってしまったので、
仕方なくレギュラーサイズに変えた。
買うには、いつもソフトパックである。
しかし、世の中には
ラッキーストライクのソフトパックを吸っているのはゴマンといる。
しかし、
1つだけ他の人があまりやらないであろうことをしている。
それはパッケージのセロファンを取らずに、
カッターでパッケージの上の部分を切って
タバコを出せるようにしているのである。

ラッキーストライクのパッケージデザインを手がけたのは、
レイモンド・ローウィーというデザイン界の伝説の巨匠である。
名前を聞いたことはないという人でも、
この人がつくったロゴマークは絶対に目にしたことがあると思う。
シェル石油やナビスコのロゴマークがそうである。

僕はラッキーストライクがもちろん美味しいからずっと吸っているのだが、
吸い始めたキッカケはパッケージのデザインにあった。

なのでセロファンを取らないことで、
パッケージの原形を全部吸い終わるまで
とどめておきたいと思ったのだ。
さらには、それで個性を主張しようと、
姑息な考えをもったのである。

しかし、隣にいる相手はキセルである。
この個性には完敗だと思った。
世の中にはまだまだ強敵がいるもんだと、
僕は開演前のザワついた会場のなかでタバコをふかしながら考えた。

かつて僕も、MYキセルを持っていたことがある。
8年前に警視庁の白バイに乗っている後輩と京都で珍道中を繰り広げた際、
後輩が「なんか記念になるものをお揃いで買いましょうよ。
そうだ、そうだ。キセルにしましょう」としつこくいってきたので、
仕方なく買ったのである。

オトコ同士でお揃いの記念品を買うなど気持ち悪いし、
別にキセルには興味もなかったのだが、
かわいい後輩の想い出づくりのためと思い、
ひと肌脱いだというか、サイフの紐を解いたのだ。

その後、なんどか吸ってみたのだが、
正直いってあまり美味しいものではなかった。
こうして僕の
MYキセルは実用品ではなく、
引き出しのなかの埋蔵品となった。

隣でキセルを吹かしていた男性は、
小粋にポンと灰皿にキセルの先をぶつけ、吸い殻の灰を落とした。
そしてまた新たに煙草を詰め、火をつけた。

その姿を見ながら、
僕は
1991年の秋から翌年の春にかけて放映されていた
“必殺仕事人 激突
!”を想い出していた。

1972年から続いたテレビドラマ・必殺シリーズの
実質的な最終シリーズとなったこの“必殺仕事人 激突
!”は、
ご存知、藤田まこと演じる中村主水に加え、
三田村邦彦演じる飾り職人の秀、そして元締めに酒井和歌子、
首切り役人を生業とする山田朝右衛門に滝田栄、
さらに光本幸子、中村橋之助が仕事人として名を連ねていた。

この橋之助演じる夢次というのが、
キセルの火を特殊なゼンマイ仕掛けで飛ばし、
相手をピストルで撃つように仕留めるのである。

いま、CSでこの“必殺仕事人 激突!”を再放送しているので
録画して観ているのだが、
あらためて観てみるとこれがかなりの傑作なのである。
ちょうど
1年前の日記に僕は必殺シリーズについて、
ベスト
3を挙げるとすれば“新・必殺仕置人”がトップで、
次に
“必殺仕事人W”で、3位は中村敦夫さんが出演していた“必殺仕業人”か、
故沖雅也が出演していた“必殺仕置屋家業”が同率といったところであろうかと書いたが、
ちょっと考え直さなければならないかなと思っている。
偶然にもいま“必殺仕事人W”も再放送されているので交互に観ているのだが、
完成度としては
“必殺仕事人 激突!”のほうが高いように思えてきたのである。

各仕事人のキャラや仕事ぶり(殺し方)も印象的なのだが、
特に中村主水の昼間の顔のいい加減ぶりが最高なのである。
藤田まことは、
まさに中村主水を演じる上での究極に達したという印象を受けるのだ。
たぶん藤田まこと本人も“必殺仕事人 激突
!”で、
中村主水はもう演りきったと思ったのではないかと思わずにはいられない。

この“必殺仕事人 激突!”の主題歌『月が笑ってらぁ』は、
藤田まこと本人が唄っている。
これがまた、いい歌なのである。
あらためて藤田まことの芸達者ぶりには感服させられてしまう。

最高視聴率64.8パーセントという驚異的な数字をマークした
“てなもんや三度笠”で一時代を築き、
さらに必殺シリーズで一時代を築き、
ほかにも“剣客商売”や“はぐれ刑事”シリーズで大人気を博し、
舞台や映画でも活躍してきた藤田まことのインタビューが
先週の“
R25”に掲載されていた。

そのインタビューにおいて、
藤田まことは当時の“てなもんや三度笠”の人気ぶりについてこう語っている。
「やりながらも思ってましたね。まあ、これがずーっと続くことはないな、と」

そして「芸能界というのは、今日はあるけど明日はないような世界です。
僕はとにかくなんでもやってやろうと思ってきた。
なんでもやって、もうひとつ上の段階へ上がっていこうと。
()常に地道に上がっていくしかないわけですね」

藤田まことは今月1日から公開されている映画“明日への遺言”で、
B級戦犯として捕らえられた元東海軍司令官・岡田資(たすく)中将を演じている。
この映画の公開に際して、
藤田まことは映画の宣伝のために全国をかけ回ったそうだ。
58年に及ぶ芸歴のなかでも、初めての経験だったという。

藤田まこと、74歳。
僕は
1人のプロフェッショナルとして、藤田まことという人を素直に尊敬する。


2008.03