ファイン・ヤング・カニバルズ「シー・ドライヴス・ミー・クレイジー」

僕がまだ駆け出しの頃、
某出版社の広告局にシライシさんというキレイな女性がいた。
シライシさんを評し、先輩が
「シライシさんって、すごく美人に見えるときとそうでないときがあるんだよ。
あーゆーヒトって女優に向いてるんだよな」といった。

僕は先輩がなにをいっているのかさっぱりわからなくて、
その言葉の真意を聞いたところ、女優というのは美人なだけではなく、
美人には見えない表情ももっていないと一流にはなれないとのことだった。

この先輩は芸能関係の広告を手がけていたので、
なるほど美人なだけじゃ一流女優にはなれないんだと、
まだまだ駆け出しの僕は頭に刷り込んだ。

基本的に美人なのに、そう見えないときもある女優。
ぼくのなかではジョディ・フォスターがそうである。

そのジョディ・フォスターがいちばんキレイに見えたのが、
ホンダ・シビックフェリオの
CMである。
この
CMOAされていた1991年に、
ジョディは“羊たちの沈黙”で
2度目のオスカーを受賞。
女優としても、まさに脂が乗り切っていた時期である。
CM出演料のギャラも破格だったのではないだろうか。

しかし、ジョディはこの
CM出演でギャラ以上のものを手にしたと思う。
自らのベストな表情の記録である。

ホンダ・シビックフェリオの
CM以降、
ジョディ・フォスターの表情は写真でも映像でも数多く見ているが、
この
CMを超える魅力的なジョディを見たことがない。
この
CMを誰がつくったのかは知らないが、
実に素晴らしい仕事をしたと思う。
同業者の1人として悔しいけれども、賛辞を贈りたい。

このCMで使われていたのが、
ファイン・ヤング・カニバルズの
『シー・ドライヴス・ミー・クレイジー』である。
ファイン・ヤング・カニバルズについて詳細は知らない。
知っている曲も、この曲だけだ。

ラジオからこの曲が流れるたびに、
僕はジョディ・フォスターとホンダ・シビックフェリオを想い出す。

広告における音楽とは、
こう使うものですというお手本だと思う。


2007.03