EPO「う、ふ、ふ、ふ、」

いよいよ今日からゴールデンウィークのスタートである。
人によっては今日から
9連休という人もいると思うが、
僕はといえば
2()に大きなプレゼンがあるため、
カレンダー通りの勤務で、
明日の日曜日も例によって早朝出勤を予定している。

なので、ゴールデンウィーク前半は、
あまり連休という感覚がないのだが、
それでも世の中がなんとなく
ウキウキしている様子を感じるのは楽しいものである。

ゴールデンウィークというと
僕のなかでいちばんの想い出となっているのが
高校
3年生のときのゴールデンウィークである。

ゴールデンウィーク中にサッカーの大会が開催されていたのだが、
この大会で負ければ
3年生は引退という大会であった。
僕らが通っていた高校は進学校だったので、
お正月に行われる全国高校サッカー選手権の予選を待たず、
夏休み前に
3年生は引退するのが慣例となっていたのだ。

僕らはひとつでも勝って、
少しでも長くサッカーを続けたかったので、
この大会前から必死になって練習を重ね、
必死になって試合を戦ってきた。

高校時代最後の試合は、いまもよく憶えている。
五月晴れの下、母校のグラウンドでその試合は行われた。
そしてその試合には、
校長先生自らがひとりで応援に来てくださっていた。

試合は00のまま延長に入った。
延長前半、ペナルティエリアのなかで
僕は絶好のシュートチャンスを得た。
ペナルティエリア内の右
45度ぐらいの位置で、
ボレーショートを打つチャンスがあったのだ。

ボールは僕の右側から来た。
シュートする前に相手キーパーの位置を見たら、
少し前気味であった。
僕はとっさに右足のアウトサイドで、
キーパーの頭上を越えるループシュートを打つと決めた。

蹴った瞬間の手ごたえというか足ごたえは完璧だった。
僕は蹴り終えた次の瞬間、
ボールがキーパーの頭上を越えて
ゴールに吸い込まれていく軌道を見守った。

しかし、結果的にはこのシュートは
相手キーパーによってゴールの外にはじき出された。
キーパーが後ろ向きに下がりながら、
ここしかないというタイミングでジャンプし、
ボールをゴールの外へかき出したのだ。

僕はこのプレーを、信じられない思いで見ていた。
相手のキーパーは、キスという名の気心の知れたヤツで、
町なかで会ったときにはよく笑顔で挨拶を交わしていた。
身長は僕より少し高い程度だったので、
キーパーとしては小柄である。
僕はキスが小柄なのを知っていて、
しかもポジショニングが前気味だったのを確認したからこそ、
キスの頭越えを狙ったのだ。

きっとキスは、この試合に絶対勝ちたいという気持ちが
僕より上だったのだ。
だからこそ、あんなプレーが土壇場でできたのだ。

延長の前半終了直前、均衡は破られた。
相手チームが
1点先制したのだ。
延長後半、僕らはまさに必死になって戦った。
しかし、僕らが得点することはなかった。

試合終了とともに、チームメイトの多くは泣き崩れた。
僕は泣かなかった。
そして、真っ白な気持ちで
想い出のいっぱいつまったグラウンドをグルリと見渡した。
あとにも先にも、あんなに澄み切った気持ちになったことはない。

本当に文字通り真っ白な気持ちであった。

僕は泣き崩れているチームメイト一人ひとりに声をかけ、
相手チームのベンチに、そして自分たちのベンチに一礼した。
そのあと、モリという仲間に「お疲れさま」と声をかけ、握手を交わした。

モリは中学のときのライバル校の選手で、
高校入学とともにサッカー部に入ったのだが、
ほどなく退部した。
そして
2年生になってから再び入部したのだ。
当初僕は、モリの入部について快く思っていなかった。
僕らは高校1年生の
1年間、
先輩後輩の厳しい上下関係のなかでがんばってきたのに、
モリはその苦労を味あわずやすやすと先輩となったのだ。
モリに対しては嫌味もいったし、罵詈雑言も吐いた。

しかしモリは、そんな僕の態度に腐ることなく熱心に練習を続け、
そして自力でレギュラーポジションを勝ち取ったのだ。
僕はそんなモリを真っ先に労ってあげたかった。
いや、本当は謝りたかったのかもしれない。
他のチームメイトたちは、まだ泣き崩れたままだった。

僕らの試合を、中学時代のチームメイトが見に来ていた。
もちろん高校ではライバルである。
そんな元チームメイトに「負けちゃったよ」とひと言だけいって、
僕はグラウンドの出口に向かって歩いていた。
このとき、僕がどんな顔をしていたのかはわからない。
その直後、相手キーパーのキスが僕のところに寄ってきた。
僕は「ナイスキーパー」と声をかけ、そしてがっちりと握手した。
勝者の握手は実に力強かったことを、つい昨日のことのように想い出す。

そして、グラウンドの出口で僕はグラウンドに向かって一礼した。
もうここで、選手としてサッカーをすることはないのだ。
不思議と何も感じなかった。
僕は淡々とした気持ちで、グラウンドから離れた部室に向かって歩き出した。

次の瞬間、何かが心の奥底からこみ上げてきた。
それは怒りでもなければ、悔しさでも悲しみでもなかった。
だが、僕は泣き出していた。
それは嗚咽に近いものだった。

あれから四半世紀の歳月が流れたが、
僕はいまだにあの涙の根源がわからない。
強がりでもなんでもなく、僕は負けたという事実だけを受け止め、
これで終わったと感じていただけだ。
そこには前述のとおり怒りも悔しさも悲しみもなかった。
なのに涙はとめどなく流れ続けたのだ。

「涙は心の汗だ」なんて臭いコトをいうつもりはないが、
僕はこの涙を体験できてよかったと思う。
すべてはサッカーをやっていたおかげなのである。
僕はつくづく学生時代にサッカーをやっていてよかったなと思う。

この時期によくテレビやラジオから流れていたのが、
EPOの『う、ふ、ふ、ふ、』である。
この曲は当時、資生堂の春のキャンペーンソングに採用されたが、
最近でも
YOUと柳楽優弥が出演したダイハツ“ミラ”のCMにも使われた。

EPO1984年にも高見知佳に提供した『くちびるヌード』が
またまた資生堂の春のキャンペーンソングに採用されたほか、
自身でも『恋はハイ・タッチ ハイ・テック』でヒットを飛ばしている。

そんなことが関係してか、
EPOというとなんとなく4月〜5月というイメージが僕のなかでは強い。


世はゴールデンウィーク。
みんなが「う、ふ、ふ、ふ♪」と口ずさみなりたくなるような
楽しい日々の連続であるといいなと心から思う。


2007.04