ドゥービー・ブラザーズ「リッスン・トゥ・ザ・ミュージック」

真冬にこんな話題はどうかと思うが、
僕は海があまり好きではない。
海で泳いだ経験は、
10回もないのではないだろうか?

泳ぎ自体は別に嫌いではないのだが、
どうも海で泳ごうという気になれない。
海を見ていると恐怖を感じるのである。
飛行機は全然怖くないのだが、船はめちゃめちゃ怖い。
できれば乗りたくない乗り物である。

そんなことが関係あるのかどうかわからないが、
いわゆるウェストコーストものは、
少年時代からあまり熱心に聴いてこなかった。
なのでドゥービー・ブラザーズについても、あまり詳しくはない。

そんな僕ではあるが、
ドゥービーの『リッスン・トゥ・ザ・ミュージック』だけは大好きで、
この曲を聴きたいがためにだけ以前、ドゥービーのベスト盤を買ったほどだ。

この曲は、J-WAVEで僕が崇拝するワル大人のひとり、
ロバート・ハリス兄の番組を聴いているときに好きになった。
たぶん、それ以前にも耳にしたことはあったのだろうが、
不思議と僕のアンテナにはひっかからなかったようである。

僕はウェストコーストに行ったことがない。
僕は抜けるような青い空や碧い海が奏でる波音よりも、
ネオンと街のノイズのほうが好きだ。

船が大嫌いな僕が、
ゴム製のモーターボートに乗って離れ小島にわたったことがある。
1990年に仕事で行ったセブ島でのことである。

当時はバブル全盛期、
あやしげなリゾートプロジェクトがあちらこちらで進められていた。
このとき僕は、セブ島に建設するという
一大リゾート施設の取材撮影でセブ島を訪れたのだ。
その際、いかにも悪そうな若者に誘われて、
僕は離れ小島に連れて行かれた。

そこで、ぬるいココナッツとビールとグラスの接待を受けた。
ちょっと奥に行くと実弾でライフルが撃てるよといわれたのだが、
別に僕は銃に興味はなかったので断った。
そして来たときと同じゴム製のモーターボートでセブ本島へと引き返した。

その途中、海を見ていたら紺碧というのはこういうことをいうんだ、
という海の色に出くわした。
いままで一度も見たことのない色だった。
そして、その奥に大きなヒトデが見えた。
紺碧の海に、真っ赤なヒトデ。
こんなに美しい色彩を僕は見たことがない。

ひょっとしたら供されたグラスのエフェクトがあったのかもしれないが、
それにしてもまさにこの世のものとは思えない美しい色であった。

身の危険を顧みず、海を渡って出かけたかいがあるというものだ。

こんなハナシを後輩のジョニーとしていたら
「船が怖いとか危ないという以前に、
フィリピンの離れ小島に行くことのほうが危険ですって」といわれてしまった。
たしかにそうである。
でも、そんなことは指摘されるまで全然気にならなかった。
このあたりが僕のノーテンキなところである。
石橋なんか叩いてわたらないのだ。

セブ島のホテルに帰ってから、
僕は離島でわけてもらったグラスをみんなで回し飲みした。

ドゥービー・ブラザーズのドゥービーとは、大麻の隠語である。

その夜、僕らはまさにドゥービー・ブラザーズだった。


2007.01