デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズ「カモン・アイリーン」
僕はディスコというところに、
ほとんど行ったことがない。
行った回数は生涯でひと桁台だ。
だいたいにして躍るということに興味がないのだ。
だから、クラブもライブ以外の目的では行ったことがない。
そんな僕がはじめてディスコに行ったのは、
高校3年生の夏であった。
が、かかる曲はつまらないものばかりで、
僕は楽しそうにフロアで躍る人たちを見ながら、
隅っこでタバコを吹かしてばかりいた。
そんななか、ついに僕のフェイバリット・ナンバーがフロアに響きわたった。
デキシーズ・ミッドナイト・ランナーズの『カモン・アイリーン』である。
デイシーズ・ミッドナイト・ランナーズは1978年、
ヴォーカルのケヴィン・ローランドを中心に結成されたバンドで、
『カモン・アイリーン』では全英と全米でナンバーワンを獲得している。
バンジョーやフィドルをフィーチャーしたケルトっぽい彼らのサウンドは、
他に類を見ないまさに“オンリー・ワン”のものであった。
『カモン・アイリーン』での大成功のあと、
満を持して1985年にニューアルバム
“ドント・スタンド・ミー・ダウン”を発表したが、これが見事に大コケ。
出来自体は悪くないと思うのだが、セールス的にはさんざんであった。
ほどなくしてデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズは解散した。
ケヴィン・ローランドは1988年にソロアルバムを発表するが、
これまた大きな話題になることはなかった。
その後は、ドラッグ漬けの日々を送っていたらしいが、
1999年にアルバム“マイ・ビューティ”でカムバックした。
その2年前の1997年。
セイヴ・フェリスなるスカ系のバンドが『カモン・アイリーン』をカバーし、
日本でもかなり話題になった。
しかし僕の印象は
「やはりこの曲はケヴィン・ローランドのヴォーカルじゃないとね」というものであった。
それにしても、僕がはじめて行ったディスコ
−たしか歌舞伎町のギリシャ館といったかな−
のDJは何を考えて『カモン・アイリーン』をかけたのだろう。
とてもじゃないが、ディスコには不釣合いな曲である。
案の定、僕は大喜びであったが多くの客は不満だったらしく、
フロアからぞくぞくと引き上げ、
ドリンクや食べ物をとったり、タバコに火をつけたりして休憩していた。
働き出してからはディスコに行ったという記憶がないので、
僕のディスコ体験は1983年から85年までのわずか2年間である。
そこで新しい恋を拾ったということはおろか、
楽しかったという印象もない。
やはり遊びには、自分のフィールドがあるのかも知れない。
実際、1度だけ行ったことのある別のディスコがつぶれたあとにできたビリヤード場には、
足しげく通った。
僕にはディスコなどよりビリヤード場のほうが心地よく、
ダンスよりもナインボールのほうが何倍も何十倍も楽しかった。
最近はビリヤード場にも、いっていない。
働きすぎである。
10代の頃は、お金はなかったけど時間だけはいっぱいあった。
もし、いま時間がお金で買えるとしたら、
1時間あたりいくらぐらいなのだろう。