デニース・ウィリアムス「レッツ・ヒア・イット・フォー・ザ・ボーイ


困った。困った。
ナニが困ったかといえば、
仕事のアイディアがさっぱり浮かばないのである。

今週の水曜日、
ワインがらみの販促キャンペーンの仕事を依頼されたのだが、
そのアイディアが今日に至ってもナニも浮かんでこないのである。

今日も朝からいろいろとアタマをひねって、
あーでもない、こーでもない、ではコレでどないや
?などと考えを巡らせているのだが、
神はまだ僕のところに降りてきてはくれない。

しかも今日も暑い。
こんな暑い日に部屋にこもって仕事をしていたら、
18歳のころの夏を想い出した。
18歳の夏、僕は春から通いはじめた学校にも行かず、
連日のように中野のオンボロアパートでウダウダしていた。

この年の夏も暑かった。
この暑かった夏に大ヒットした映画が
ケビン・ベーコンの出世作“フットルース”である。
僕はこの映画を観ていない。
しかし、この映画に使われた曲はイヤというほど耳にした。
ケニー・ロギンスが唄った『フットルース〜メインテーマ』、
ボニー・タイラーの『ヒーロー』、
アン・ウィルソンとマイク・レノの『パラダイス〜愛のテーマ』、
シャラマーの『ダンシン・イン・ザ・シーツ』など
いまも耳にこびりついて離れない曲ばかりだ。

このサントラのなかで僕がいちばん好きだったのは
デニース・ウィリアムスの『レッツ・ヒア・イット・フォー・ザ・ボーイ』で、
さっきからこの曲のダンサブルなメロディが
僕のアタマのなかで何度も鳴り響いている。

ワインについて考えなきゃいけないのに。
嗚呼、なぜデニース・ウィリアムス…。

全然仕事には関係ないが、ワインと“フットルース”といえば、
ちょっとした想い出がある。
僕が以前務めていた会社のメインクライアントのひとつ、
某居酒屋チェーンの取締役部長と飲んでいたときのハナシだ。

この部長、アルバイトからどんどん頭角を現し、
ゆくゆくは社長の座が確約されているとウワサされる切れ者で、
前に務めていた会社の社長も心酔していた。

ある日、この部長を囲んで数人と飲む機会があったのだが、
そのときワインの一気飲みの罰ゲームがはじまった。
この部長は、というか、この会社の人たちは
罰ゲームで一気飲みをさせるのが大好きなのだ。
そんなハナシを社長から聞いていたので、
一気飲みが大嫌いな僕は、
極力この会社の人たちとの飲み会に行くのを避けていたのだが、
このときばかりは自分が担当していた仕事絡みだったため
どうしようもなく行った。

そして、恒例の一気飲みがはじまったのである。

僕は日本酒やワインがほとんど飲めない。
ので、僕にとってワインの一気飲みなんてのは、
まさに命がけの荒行である。
ゲームで負けて罰ゲームをさせられないよう
全神経を集中しゲームに臨んでいたのだが、
それでも何度かは負け、何杯かを一気飲みさせられた。

幸いにして具合が悪くなることはなかったのだが、
それでも口のなかはワインの後味で気持ち悪かった。

何かを食べてこの後味を消そうと思い、
目の前にあった小さなトースト状のおつまみを口に入れた。
ら、なんともいえない味がした。
僕が口にしたものは、カニみそトーストだったのである。
僕はカニは大好きなのだが、
カニみそだけはどうもいただけない。
大嫌いなのだ。

口のなかいっぱいに広がったカニみその、
なんともいえない味。
んーダメだ
!!
僕は迷わず目の前にあったワイングラスを自ら一気に飲み干した()

この飲み会の席で、映画“フットルース”の話題になった。
クライアントの部長が
「この映画をオレは中学生のとき山形で観て、
はじめてハリウッドにふれたんだ」と熱く語った。

僕はそのハナシをふーんと右から左へ受け流そうとした。
ら、ナニかがひっかかり、左からそのナニかが強烈な勢いで戻ってきた。

中学生のときにフットルース!? 
オレはその頃、高校を卒業していたぞ。

そうなのである。この部長は僕より
4歳年下だったのである。

かなり前髪がヤバイ。
誰もが名前を知っている居酒屋チェーンの取締役部長。
そんなことから僕はてっきり僕より年長者だと思い込んでいたのである。

人を見た目とか先入観で判断してはいけない。
思い込みというものは、かくも怖いものだと
僕はワインと“フットルース”から学んだ。

それにしても、アイディアが浮かばない。
困った、困った。

2007.08