クリスティン・マクビー「恋のハートビート」


昨日とり上げたカーズの『ユー・マイト・シンク』のほかにも、
1984年の春は素晴らしい音楽が目白押しであった。
スタイル・カウンシルの『マイ・エバー・チェンジング・ムーズ』や
シンディ・ローパーの『ハイスクールはダンステリア』のプロモが
よく新宿アルタの大型ビジョンに映し出されていたものだ。

クイーンは快心作『レディオ・ガ・ガ』を発表し、
ジョン・レノンの未発表作
『ノーバディ・トールド・ミー』が聴こえていた。

その一方でドアーズの
“アライブ・シー・クライド”というライブ盤がリリースされたのだが、
このアルバムに収められた『ハートに火をつけて』は
いまだに僕のなかでは最高のバージョンである。

クリスティン・マクビーの『恋のハート・ビート』がリリースされたのも、
この時期である。
実はこの曲が、
1984年春の数ある素晴らしい音楽のなかで、
MYベストワンなのだ。

クリスティン・マクビーは
フリートウッド・マックのメンバーとして知られていたが、
僕がフリートウッド・マックを知ったのは、
この
2年前の1982年のことであった。
ラジオからしょっちゅう流れていた
『ホールド・ミー』という曲が気に入ったのだ。
イージーリスニング風のメロディラインと
美しいコーラスは聴いていて心地よかった。

フリートウッド・マックには
スティービー・ニックスという女性ヴォーカリストがいたのだが、
1983年にリリースされた彼女のソロアルバムは、
フリートウッド・マックの世界とはほど遠いダミ声ヴォーカルで、
『ホールド・ミー』で知った
フリートウッド・マックに対する僕のイメージは混乱した。


その混乱を収めてくれたのが、
『恋のハート・ビート』である。
これぞまさに僕が抱いていたフリートウッド・マックの世界。
ラジオから流れてきたそのメロディラインは、
心地よい音楽の園であった。

しかも季節は春である。
あたたかい春の陽射しとこの曲が醸す雰囲気は、
実によくマッチしていた。

昨日、東京では季節はずれの初雪を観測し(僕は見ていない)
なんだか冬に逆戻りしたような天気が続いてはいるが、
季節は間違いなく春である。

なにもかもがきらめいて、心もウキウキする春。
こんな季節には、やはり心地よい音楽を楽しみたい。
クリスティン・マクビーの『恋のハート・ビート』
・・・この季節にぜひオススメの
1曲である。

それにしても、この『恋のハート・ビート』というタイトルは
いかにも時代を感じさせる。
原題の“
Got A Hold On Me”からどういう経路をたどって、
この邦題にたどり着いたのであろう。

そういや昔は、原題とはなんの関係もない邦題がたくさんあった。
いちばん強烈なのはやはり今は亡き“奇才”フランク・ザッパ先生の
『ハエ・ハエ・カカカ・ザッパ・パ』
(原題:THE MAN FROM UTOPIA)であろう。

ザッパ先生の曲はヘンな邦題の宝庫だ。
No Not Now”が『いまは納豆はいらない』になり、
I Come From Nowhere”が『ア、いかん、風呂むせて脳わやや』になる。

コピーライター歴
22年の僕も、脳わややってなもんだ。


2007.03