キャンディーズ「微笑みがえし」

昨年夏、「普通の女の子に戻りたい」といって、
わが社を退社していった女性がいる。
たしかに広告屋は時間が不規則なので、
仕事が終わった後に友だちと会う約束をしてもダメになったり、
出かけようとしていた休日が出勤になったりということは珍しいことではない。

かくいう僕も、友だちと会ったり、
どこかに遊びに行ったりということが、なかなかままならない。
どこからどこまでが普通というのか、その定義づけは難しいが、
僕も「こんな生活、普通じゃないよな」と思うときがたまにある。

僕はアーティストではないので、
自己表現のために仕事をしているわけではない。
あくまで職業として、クリエイティブな作業をしているにすぎない。

しかし「仕事だから」といった冷めた、
あるいは割り切った気持ちで取り組んではいいモノはつくれない。
気取ったことをいわせていただければ、
僕にとって仕事とは、自分のプライドをかけた真剣勝負なのである。

だから、極限までものごとをつきつめる。
その結果、どこからがオフタイムで、
どこまでがオンタイムなのかわからない生活となってしまう。

「普通の女の子に戻りたい」といって
キャンディーズが突然の解散・引退宣言を行ったのは、
1977年の夏であった。
そして翌年の
4月、後楽園球場で解散コンサートを行い、
3人のメンバーはそれぞれ普通の女の子になった。

ラストシングルとなった『微笑みがえし』は、
彼女たちにとって初のオリコン初登場
1位を記録。
まさに人気絶頂のなかでの解散であった。

ところで、後楽園球場ができてから、
今年で
70周年なのだそうだ。
東京ドーム前の柱には、
70年間の後楽園での名シーンの数々が貼り出されている。
そのなかにキャンディーズの解散コンサートの写真と解説もあった。

後楽園球場に集まった
55千人を前に
「私たちは幸せでした」と解散したキャンディーズであるが、
その後
3人は芸能界に復帰した(ミキちゃんは1983年の期間限定で復帰)

やはり芸能界というのは、魅力的な世界なのだろうか?

僕が勤務する会社は、
冒頭の女性を含めこの
1年間に10人以上が退職していった。

40名規模の会社で、この退職者数は異様である。
僕は直接人事のマネージメントをしているわけではないので、
彼ら彼女らの退職理由は詳しくは知らないのだが、
それでも何かしらの問題が会社になければ、
こんなに大量の退職者が出るわけがない。

自社のことをこの場で愚痴ってもしかたないのだが、
わが社の経営陣や直接の上司たちには、
そういう問題意識が欠けているように感じるのだ。

もちろん人生はいろいろ、人それぞれである。
出会いもあれば、別れもある。
人生のステップアップのために会社を辞めていくのも、
ひとつの人生選択として受け入れていかなければならない。
ただ、ひとつ気になるのはわが社が、
辞めていく人にとって「私は幸せでした」
という気持ちを抱ける会社であるか否かである。
もし僕が経営者になるとしたら、
辞めたあともたまには遊びに行きたくなるような、そんな会社をつくりたい。


辞めていく人もいれば、新たに入ってくる人もいる。
さらには、戻ってくる者もいる。
冒頭の彼女である。
なんと、彼女は「普通の女の子はつまらない」といって、
わが社に復帰することとなったのだ。
まるで伊藤蘭である。
まるで田中好子である。

わが社も、また戻りたくなるような魅力的な世界なのだろうか?


伊藤蘭も田中好子も、
復帰後は女優として素晴らしい仕事を数多くこなしている。
わが社に復帰する彼女も、
以前にも増していい仕事をたくさんしてほしいと思う。

そうでなければ、復帰する意味などない。


2007.01